2022年のベルリン映画祭、最高賞はカタルーニャ映画『Alcarràs』に輝いた。これで2021‐22の三大映画賞すべて、女性監督が制覇したことになるが、その「後ろ」にいる女性製作者の存在にも注目したい。

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'Alcarràs' takes the top prize at the Berlinale International Film Festival
'Alcarràs' takes the top prize at the Berlinale International Film Festival thumnail
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 金熊賞を手に、審査員のM・ナイト・シャマランやコニー・ニールセン、濱口竜介監督らを脇に、授賞スピーチでカルラ・シモン監督が感謝をささげたのは、タイトルが呼ばれた瞬間に客席で抱き合ったプロデューサーのマリア・ザモーラ。感謝の言葉に彼女が思わず涙ぐむ姿はベルリン映画祭のハイライトだった。

16 february 2022, berlin director carla simon and producer maria zamora win the golden bear for best film for alcarras at the berlinale 2022 awards ceremony at the berlinale palast the 72nd international film festival will take place in berlin from feb 10 20, 2022 photo monika skolimowskadpa zentralbilddpa photo by monika skolimowskapicture alliance via getty images
picture alliance//Getty Images
シモン監督

ザモーラはクララ・ロケ監督(『ペトラは静かに対峙する』(‘18)など)の『リベルタード』(’21)、スサナ・カサーレス監督のゴヤ賞ノミネート短編『La invitación』(‘16)など、女性監督を積極的にプロデュースしてきた。シモン監督とは『Estiu 1993(映画:Summer 1993)』(’17)、ドキュメンタリー『Correspondencia』(‘20)、『Después también』(’19)でも組んできたいわば“盟友”。

72nd berlinale international film festival
Anadolu Agency//Getty Images
ザモーラ=プロデューサー(左)と

シモン監督はまた、モナコの女性プロデューサー、ヴァレリー・デルピエールとも『Estiu 1993』と『Las pequeñas cosas』(’15)で仕事を重ねている。

金獅子賞も女性名プロデューサーが参加

 ベネチア映画祭を制したオドレー・ディワン監督『L'événement(ハプニング)』の製作は、アリス・ジラール。

オドレイ・ディヴァン
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ディワン監督

カメラ・ドール受賞作『禁断のエチュード マルグリットとジュリアン』(‘15)、『不機嫌なママにメルシィ!』(’13)、『レ・ミゼラブル』(’19)などで知られる名プロデューサーは前作『Mais vous êtes fous』のプロデューサーも務め、セリーヌ・ディオンの物語を基にしたヴァレリー・ルメルシエ監督・主演『ヴォイス・オブ・ラブ』(‘20)、『めざめ』(’02)のデルフィーヌ・グレーズ監督によるドキュメンタリー『Beau Joueur』(’19)も製作した。現在ドラマシリーズ「Nona et ses filles」でもヴァレリー・ドンゼッリ、クレマンス・マドレーヌ=ペルドゥリアという2人の女性監督を起用し撮影している。

ちなみに『Mais vous~』では脚本もマルシア・ロマノと監督の女性2人が共同で担当。

アリス・ジラール 
Kristy Sparow//Getty Images
2022年セザール賞でプロデューサー賞(ダニエル・トスカン・デュ・プランティエ賞)をエドゥアール・ヴェイユ(左)と受賞したアリス・ジラール

パルム・ドール受賞作に参加した馴染みのプロデューサー

 昨年カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞し賛否を巻き起こした“鬼作”『TITANE/チタン』(‘21)のプロデューサー陣は一見男性だらけかと思いきや、共同プロデューサーとしてカサンドル・ワルノー(『Girl ガール』『ONODA 一万夜を越えて』など)、アシスタントプロデューサーとしてアンヌ=ロール・デクレルクが参加。

ジュリア・デュクルノー
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デュクルノー監督は国立高等映像音響芸術学校フェミス出身の超エリート

ワルノーとデクレルクの2人はイモージェン・プーツ&ジェシー・アイゼンバーグ主演の『Vivarium』(‘19)でも同じチームで仕事をしていて、ディワン監督とワルノーは出世作『RAW〜少女のめざめ〜』を生み出した。ここには女優のジュリー・ガイエも共同製作者として参加している。

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『TITANE/チタン』本予告 4.1公開
『TITANE/チタン』本予告 4.1公開 thumnail
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作品が最高賞に輝くと、壇上に並ぶ製作陣の面々のジェンダー割合が一気に顕在化する。もうすぐ米アカデミー賞授賞式が開催されるが、今回のベルリン国際映画祭のように作品賞の壇上で女性のクリエイターを女性たちが支えている構図が見られる確率は10分の1(※)。ただひとり、女性プロデューサーとともにアカデミー賞候補となっている女性監督ジェーン・カンピオンがベネチア国際映画祭で語った「一度チャンスを与えれば、女性たちは止まらない」状態が世界三大映画祭では目撃できた。

※[追記2022.03.01]シアン・ヘダー監督『コーダ あいのうた』プロデューサー陣にも女性はいるが、アカデミー賞候補リストからは外れている。
※[訂正2022.03.01]ジェーン・カンピオンは唯一「女性プロデューサーとともにアカデミー賞候補となっている女性監督」でした。訂正してお詫びいたします。

アカデミー賞
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2021年はクロエ・ジャオの『ノマドランド』がオスカー作品賞を受賞し、史上2つ目の女性監督作として大きな話題になった。内容に関しては、白人アメリカ人の懐古主義的物語をマイノリティ女性に撮らせただけという批判ができなくもない。それでも、登壇した製作陣のジェンダー比率がほぼ50:50(むしろ女性のほうが多い)という光景は貴重なものだった。今年もあんなシーンが見たい。