現地時間5月20日、カンヌ映画祭ドビュッシー劇場で、「ある視点部門」に出品された日仏比合作『PLAN 75』がプレミア上映された。

会場近くで開催された上映直後の記者会見、レッドカーペットは「あっという間だった」と初めてのカンヌを表現したのは出演者の磯村勇斗。「カンヌを歩いている人たちだったりを見て、映画を愛している人たちが世界にはたくさんいるのだと改めて感じられて、日本で映画に出ている俳優として、『自分も頑張れるな』と今回思いました。愛してくださっている人がいることで、自分も映画に対して愛をもって精進していきたいなと」「世界の人たちと一緒に映画を観るという経験は初めてだったのでとても光栄ですし、同時にどんな反応があるのたドキドキしてもいました」と感想を語った。

磯村隼人
Stephane Cardinale - Corbis//Getty Images
左から<プラン 75>で働くことになる介護職のマリアを演じたステファニー・アリアン、早川監督、磯村勇斗。磯村さんは「プラダ」のタキシードで登場

『PLAN 75』は近未来版“姥捨て山”とも言える物語。そんな作品に、上映後なにも言わずにハグを求めてくる人もいたという。

上映後の会場は拍手で満たされた。「観た人10人が10人『良い映画だ』と言う作品ではない気がしています。ただ、そのうちの数人のとても深くに響く作品ではないかな……と。その深く響いた方たちが上映後に感想を伝えに来てくださったのはうれしかったです。でも言葉というよりハグをしてくる感じ。すぐに言葉にはしづらい作品ですから。表情で伝えて『良かった』とくださる方が多くいました」と説明したのは早川千絵監督。 

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大ヒット公開中|映画『PLAN 75』予告編
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高齢女性を主人公にした映画は少ない。”姥捨て”を描きパルム・ドールを受賞した『楢山節考』(’83)も、主人公は「捨てる」側の壮年男性。その苦悩を描き、「捨てられる」側は男性の感傷を引き立てる役割として登場する。しかし『PLAN 75』は「捨てられる」高齢女性の姿を淡々と映し出し、そのまなざしは厳しすぎるのではと思えるほど。

監督は女性を物語の中心にした理由をこう解説する。「女性のほうが社会で生きていくことが厳しいという現実があると私は思っていて……。この映画の主人公は女性であるべきだと最初から思っていました」

mandatory credit photo by anthony harveyshutterstock 12948050f  chie hayakawa  plan 75 photocall, 75th cannes film festival, france   20 may 2022
Anthony Harvey/Shutterstock
人間はそれぞれ違うことが前提だけれど、それでも映画を通じて人は通じ合える

この企画の主役は高齢女性である必要がある。そんな作品の企画、監督の強い意志に賛同し真っ先に出資を決めたのはフランスの製作陣。編集作業もフランス人によりフランスで行われた。

「映画に国境はありません。フランスでポスプロ(撮影後の作業)に2か月かけたのですけれど、映画を作るうえで言葉はまったく問題になりませんでした。描かれている感情や、どういうストーリーでどういうキャラクターで描かれているのかといった理解が、できなくなるとか誤解が生まれるなどといったことが一切なかった。フランスのスタッフたちと作っているなかで、これが人生の美しさ(について)の映画であるということを理解しあいながらできたこと。それは大きな励みになりました。人間は分かり合えるのだと。“ダイバーシティ”でそれぞれ人間は違うことが前提だけれど、それでも映画を通じて人は通じ合えるのだと、映画を作るなかで本当に実感しました」

磯村隼人
Stephane Cardinale - Corbis//Getty Images

学生映画部門(シネフォンダシオン)での短編上映から8年。「国境のない映画」でどの国にも横たわる普遍的な課題を見事に映像化し「ある視点」部門出品を果たした早川監督のカンヌ後、また作品の世界中での上映にも期待がかかる。
 
『PLAN 75』は6月17日全国ロードショー