【座談会メンバー 】※五十音順
高山亜紀 ELLE digitalにて「月刊新作映画レビュー」「井之脇海のCINEMA GREET」を連載中の映画ライター。単館からシネコン系まで映画を網羅しているだけではなく、アジアドラマも幅広くカバー。若手俳優の取材歴が多数あり、審美眼が優れているので、NEXTブレイクを知りたい時に頼りになる「日本橋の母」。
細谷美香 ELLEにてアイドルを中心にインタビューを多数こなすフリーライター。その他、雑誌、新聞でドラマや映画についても執筆し、ライブや舞台など、オフラインイベントにも参加するアクティブな一面も。
よしひろまさみち 雑誌やTV問わず幅広く活躍する映画ライター&フリー編集。ELLEでは映画祭のレポートや「ELLE CINEMA AWARDS」の司会でお馴染み。国内外の作品を愛し、ディズニー作品やドキュメンタリーも詳しい。座談会では黄金マンネ的存在。
ズバリ、今年ナンバーワン作品は「虎に翼」
ELLE 今年は特に話題作が豊富だった日本のドラマ・コンテンツについて、専門家の皆さんと思う存分お話できたらと思います! まずはいきなりですが、今年のナンバーワンドラマについて。やはり「虎に翼」で相違ないでしょうか。
細谷 毎朝、泣いていました。あらゆるシーンで泣いていましたが、仲野太賀が出てくる度に泣かされましたね。
よしひろ あらためて、仲野太賀は素晴らしい。映画だと個性強めな役が多かったから、朝ドラでどうなるかと思ったら、見事にハマってらして〜。
ELLE 岩ちゃんの役どころもまた、泣けました。
高山 朝から重いテーマが続きましたが、脱落することなく、回を追うごとに引き込まれました。「俺には分かる」という名言も飛び出しました。
細谷 女性の自立や不平等、家庭との両立など、現代でも解決できていないことにまで踏み込んで描いていて。『恋せぬふたり』などでマイノリティに目を向けてきた吉田恵里香さんの脚本が素晴らしく、メッセージを体現する寅子役の伊藤沙莉さんがまた上手いので、歴史に残る朝ドラとなりました。毎朝考えさせられながら、心を動かされた作品でした。
高山 絶対に引かない、受け身でないヒロイン像があっぱれでした。後半はまさかの原爆裁判まで取り上げて、画期的な作品だったと思います。
よしひろ どこでも話題になっていましたね。今の社会問題が浮き彫りになっていることや、強い女性像、素晴らしいキャスティング、どれもあたし世代のゲイに刺さってて、飲み屋でよく話が出てました。まさに今、作られるべきものがついに手に届いてきたという感覚があります。
NEXTブレイク株にも注目。RYOKI、 本田響矢、尾碕真花…
ELLE 朝ドラを機にブレイクする俳優も多いですが、RYOKI(BE:FIRST)の抜擢のほか、気になった俳優はいますか。
細谷 若手では、朝ドラ初出演の本田響矢は父の愛人に籠絡される役柄で話題をさらっていましたね。ミステリアスで凄みのある芝居で片岡凛も注目を集めました。
高山 のどか役・尾碕真花は来年、ガールズラブドラマ「コールミー・バイ・ノーネーム」に主演するので、要注目です。「虎に翼」からの「新宿野戦病院」組のキャスティングがニュースになったり、関心度の高さを感じました。それだけ地上波のドラマに活気が戻ってきた感があります。
よしひろ 「新宿〜」はキャスティングの話題がよくも悪くも注目を集める結果になったと思います。特に塚地さんの役柄問題ではあるんですが。ただ、作品が始まってみると、その問題は残るとして、脚本や新宿・歌舞伎町ロケなど、攻めているところが評価されましたよね。
細谷 地上波のドラマが元気な印象になったのは、ほぼ同時にネット配信されるようになったのも大きいですよね。視聴率よりもTVerの再生数やお気に入り登録者数が人気の指針になってきました。
よしひろ そもそもライブ視聴するのが当たり前っていうのは一昔前の常識。同時配信されることで初めてライブ視聴にも繋がることが地上波各局も理解できたんでしょうね。地上波局主導によるTVerだけでなく、U-NEXTやNetflix、HuluなどのOTT各社を利用するのも当たり前になって、より視聴者ファーストの選択ができるようになったのは大きいと思います。
よしひろ そんな配信各社ですが、 あたしが今年ハマったのは、やはり今年も強かった、Netflixシリーズ。「地面師たち」「極悪女王」です。久々に日本のドラマを一気見しました。
細谷 「地面師たち」は流行るってこういうことなんだ! を肌で感じました。取材先でもアイドルや俳優の方たちが「もうええでしょ」「最もフィジカルで最もプリミティブで…」などのフレーズを楽しそうに楽しそうに繰り出していました(笑)。
ELLE いかにキャッチーな台詞があるかがキーですね。あとミーム(笑)。すごい回数、見かけます。
よしひろ 「ライフの方が安い爺」の五頭岳夫のプチブレイクも忘れがたい。暑い時期が長かったこともあったので、ジメンシィーTシャツも衝動買いしてめちゃ着てましたよ(笑)。
細谷 「積水ハウス地面師詐欺事件」を元ネタにしたリアルな部分と、殺人や暴力といった振り切ったフィクションの部分のバランスも良かったですよね。
よしひろ さすが大根仁さんの監督・脚本。マッチョなバイオレンス作品ではあると思うんですが、「エルピス-希望、或いは災い-」でもみせてくれた社会派をエンタメに昇華する手腕が生き生きしてましたよね。しかも、キャスティングもナイス。男性キャストが濃すぎる中で、小池栄子、尼さん役の松岡依都美の存在も光っていました。
高山 小池さんは「新宿野戦病院」の岡山弁と英語の台詞もクセになる面白さで、今年も安定の活躍でした。リアルとフィクションの相乗効果といえば、「極悪女王」も感動的でした。実話がよりドラマを効果的に面白くするという。
ELLE 現在はなんでもすぐ検索できるので、知らない世代の人も楽しめますね。
ブームを呼んだリアリティ番組「あいの里」「ボーイフレンド」
よしひろ あとは今年のブームといえば、リアリティ番組でしょうか。これまでこのジャンルではスルーされてきた中高年齢者主体による恋リアの幕開けですよ。
細谷 「あいのり」から「あいの里」ってタイトル、考えた人、すごくない? って思いました(笑)。まずそこに感動。
ELLE 意外と若い世代も観ていて、アロマのお店にせん姉が通っている? など、SNSで見つけた後日談の裏スキャンダルで盛り上がっています(笑)。
高山 介護や老後の話などはリアルで生々しすぎる面もありますね。私は「ボーイフレンド」で友情が育まれてゆく姿に爽やかな気持ちになりました。
よしひろ あたしから話題をふるには当事者すぎるので避けましたがありがとうございます! ほんとハマった人、多かったですね。配信されてすぐに話題が盛り上がったんですが、ゲイコミュニティでは最初「ルックも中身もきれいすぎる」って自分ごとにできない批判があがったんですよ。でも、2週目くらいから一気にポジティブな意見に切り替わって、最後は「次は応募したい!」の嵐(笑)。ついにシーズン2が発表されましたが、オーデション大変でしょうね〜。ちなみにNetflixのグローバル市場でも人気となり、他国からの移植オファーがいくつかあったそうですよ。ただ、すごく難しいのが、リアルとファンタジーの間ってこと。「ボイフレ」が世界的評価されたのはは“恋リアでも恋愛せずに友情を育む選択肢”を与えた初めてのシリーズってところだったので、恋リアでセックスバンバン!ってのが当たり前のエリア、たとえば欧米の人たちには、ただのファンタジードラマに見えちゃうはずなんですよ。
ELLE 「テラスハウス」は逆にそこが欧米に受けている感がありましたけど。
高山 あの奥ゆかしさがいいんですけど、そこが欧米の恋リアとの違いですね。
よしひろ これまでにない恋リアという意味では制作陣の読みは正しいですね。ちなみに制作陣は「テラスハウス」のチームです。プレビューで観たときに真っ先に問い合わせしましたけど、共同テレビのあのチームと聞いたら超納得だったんですよね。
細谷 徳井さんやドリアン・ロロブリジーダさんなど、MC陣の金言がいっぱいありましたけど、「歌詞、忘れてるようじゃ無理か。歌詞はね、入れとかないと」という菊池風磨構文が生まれた「timelesz project(タイプロ)」も世間を騒がせました。Netflixというプラットフォームの力を借り、ファン以外の人も巻き込んで、いい形に広がっていくお手本になるような例だと思います。メンバーが審査員となってメンバーを選ぶというのもオーディション番組としての新しさがあります。
ELLE 歌詞を覚えてないことからも、やる気バキバキのK-POPのオーディション番組とは違う、リラックスしたムードが新鮮ですよね(笑)。
高山 「あいの里」「ボーイフレンド」のエグゼクティブ プロデューサーである太田大氏は来年、磯村勇斗×オク・テギョンのドラマ「ソウルメイト」を手掛けるので、そこも楽しみです。
よしひろ やば。太田P、超大忙しですわ。
「愛のあとにくるもの」ほか、日韓のコンテンツ交流のゆくえは?
ELLE 日本のドラマの韓国人俳優起用も逆の韓国ドラマの日本人俳優起用も今年のトピックでしたね。
細谷 韓国の動画配信サービスCoupang Play制作の「愛のあとにくるもの」や韓国版のユニクロのCMなど、坂口健太郎の魅力を引き出していたコンテンツも目立ちましたね。
よしひろ ドラマ本編もそうですけど、韓国で取材や舞台挨拶に挑む坂口さんを観ていて、韓国においてめちゃなじみがいい“外タレ”枠をゲットした、と思いました。
ELLE イ・ヨンジとのYouTubeチャンネル「もっとつまらないものですが」では日本の坂口健太郎ファンもさらにメロメロになっていましたからね。
細谷 「お酒を飲むと友人をハグする」と話す坂口さんにイ・ヨンジが「有罪!」と言うシーンは笑いました(笑)。
高山 私は珍しく、「Eye Love You」のテオくん役、チェ・ジョンヒョプにハマりました。可愛さをストレートに打ち出せる日本の俳優ってなかなか、いないから、新鮮でした。シンプルな話なのに二階堂ふみの演技力でぐんぐん魅せられてしまうんです(笑)。また、彼女の役柄が「環境に配慮した」チョコレートブランドの社長という、動物愛護や環境保護に関心のある彼女ならではの設定で、そういう俳優業との両立の仕方もあるのかとブレなさに感心しました。
細谷 ジョンヒョプは日本で大ブレイクしましたね。「ラヴィット!」の「ヨギソダイブ!」で通訳さんまで、バズりました。
高山 チェ・ジョンヒョプのドラマ「わかっていても」の日本版「わかっていても the shapes of love」の横浜流星は本家よりかなり危険な香りです。
よしひろ 横浜流星さんって「孤狼の月」以来、あの手のヤバ男役をやらせたら負け知らずの俳優になってしまった感が……。にしても、横浜さん×藤井道人監督のタッグの相乗効果は今や、スコセッシ×ディカプリオ的なバディ関係になってしまってるのでは?
ドラマ界で存在感を放つ日本の俳優たち
ELLE 日韓の交流は来年も続きそうですか。
細谷 主演・小栗旬、ヒロインはハン・ヒョジュのNetflix『ロマンチックアノニマス』があります。小栗旬は日韓クリエイターがコラボする『ガス人間第一号』もあり、キーパーソンになりそうです。
よしひろ 小栗さんは所属事務所の社長就任以降、かなり俳優仕事を絞って内務に勤しんできた感がありましたが、ようやく俳優業リスタートって感じの年になりそうですね。年齢的にもキャリア的にも、そして同世代の同業者たちの中でも一歩抜けた知名度で、どんどん自分の好きなことができるようになると思います。個人的には舞台もやってくれ!といいいたいですけど。
細谷 「アンメット ある脳外科医の日記」の若葉竜也、岡山天音、「わたしの宝物」の田中圭など、若手よりちょっと上の世代の演技力が日本のドラマの見応えと人気を支えているんだとしみじみと感じた1年でもありました。
よしひろ「ライオンの隠れ家」での柳楽優弥。「ガンニバル」みたいな強めのキャラが多かった彼が、父性を感じる優しい役でバシッとハマったのは、今年のめっけもんでしたね。
高山 岡田将生が公私共に絶頂期だったと思います。主演映画『ラストマイル』も大ヒットしたし、「虎に翼」「1122(いいふうふ)」「ザ・トラベルナース」。そして「錦糸町パラダイス〜渋谷から一本〜」は柄本時生が企画プロデュースですけど、賀来賢人の「忍びの家 House of Ninjas」に影響されたんでしょう。俳優が本当にやりたいことを企画するプロデュースの作品も今後、増えそうです。
よしひろ 今年は30〜50代でドラマや映画で引っ張りだこの俳優さんたちが、事務所を独立するのが目立ちました。大手事務所のキャスティング力に頼らず自分の名前でもやっていけるレベルの人達ではありますが、その多くの方々がドラマと映画の垣根を全く気にしないで活動されていたり、国際協業作品や海外の作品に積極的なんですよね。個人事務所になると、さらに俳優たちがやりたいことをやりやすくなると思います。いい時代が来ました。
NEXTブレイク俳優No.1は坂東龍汰
細谷 今年の名作ドラマの1本である「ライオンの隠れ家」は坂東龍汰が素晴らしかったです。『ギルバート・グレイプ』のディカプリオを彷彿とさせる芝居でした。
よしひろ マジ同感。あの芝居にはびっくりした。
高山 坂東は映画『閉鎖病棟 それぞれの朝』でも発達障害の青年役を演じて衝撃的だったんですけど、「ライオン〜」でお茶の間にもその演技力の高さを轟かせました。ダブル主演した「RoOT / ルート」では河合優実の知名度に押され気味でしたが、いよいよ開花ですね。
細谷 20代前半の注目株だと宮世琉弥、高橋文哉、板垣李光人が華やかな存在感もあり、頭ひとつ抜けているような気がします。20代後半では神尾楓珠、西垣匠、萩原利久は芝居にも安定感がありますよね。
高山 私の周りで関心度が高いのは「夫の家庭を壊すまで(かてこわ)」野村康太ですね。BLドラマ「パーフェクトプロポーズ」も人気でした。
細谷 BLドラマは今や若手の登竜門ですし、加えて、坂口健太郎はもちろんのこと最近では鈴鹿央士、鈴木仁までMEN’S NON-NOのモデル出身は鉄板です。水沢林太郎は来年「べらぼう」で大河初出演を飾るので、幅広い世代にブレイクするかもしれません。彼も出ている宮世琉弥主演のNetflix「恋愛バトルロワイヤル」は基本的に全員オーディションで選ばれているので、実力もやる気も兼ね備えたメンバー揃い。豊田裕大は来年、日曜劇場「御上先生」でも奥平大兼、窪塚愛流、髙石あかり、蒔田彩珠といった実力派と共演します。学園ものを「次に来るのは誰か」という目線で見るのは、今も昔もやっぱり面白いです。
高山 「恋バト」は件の尾碕真花も出ています! 野村康太、窪塚愛流、2世の活躍も相変わらず、目覚ましいですね。
よしひろ 日本版2世セレブか。櫻井海音はAmazon Originalドラマ「【推しの子】」に主演していて、抜きん出ていますね。
今年いちばん最強だったBLドラマ「おっさんずラブ-リターンズ-」ほか
ELLE 今年のBLドラマの話題作といえば、どの辺りでしょうか。
細谷 「おっさんずラブ-リターンズ-」も楽しませてくれましたし、私が好きだったのは難聴の大学生と、同級生の恋を描いた「ひだまりが聴こえる」。BL枠といえますけど、優しい描写のヒューマンドラマです。中沢元紀と小林虎之介が見せてくれた繊細なやり取りが心に沁みました。
高山 逆に「25時、赤坂で」はかなり露出度高めのハードな作品でした。駒木根葵汰が体を絞って、原作コミックそのままのような線の細さで驚きました。彼も出演していた、テレビ朝日と東映が組み、特撮出身のイケメン俳優が大挙出演したブロマンス時代劇「君とゆきて咲く ~新選組青春録~」も今年です。「SHOGUN 将軍」の快進撃と配信ドラマの浸透で世界的にも時代劇が注目されているなか、今後のプロジェクトの動向が注視されています。
ELLE ボーイズグループ界隈の有力候補で押さえておくべき人物は?
細谷 先ほど、名前の出た「虎に翼」の三山凌輝(BE:FIRST)、そしてTravisJapanの松田元太(「東京タワー」)、FANTASTICS八木勇征(「南くんが恋人!?」)などはダンス&ボーカルグループの俳優枠でも先を走っていると言っていいと思います。SixTONESはもはや俳優集団の域ですが、特に松村北斗は今年、映画・ドラマともに大活躍しました。「西園寺さんは家事をしない」は家族をテーマにしたドラマの中でも、現代の新しい家族の形を見せてくれた作品ですよね。ジェンダーロールにとらわれない主人公、シングルファーザー、レズビアンのカップルが日常のなかで描かれているところもいいなと思いました。
よしひろ 子役も自然な演技で良かったと思います。「ライオンの隠れ家」もそう。旧来からある家族観にはハマらない、多様な家族のスタイルをみせていく、というのも近年のトレンドでもあり、社会認知も必要なことだと思うんですよね。それを積極的にやってるのがTBS。「義母と娘のブルース(ぎぼむす)」に見られるようにそこはTBSの十八番です。
ELLE 「ライオンの隠れ家」もそうですが、尾崎匠海(INI)は「アンメット」といい、出演作品がドラマ通が推しているいい作品ばかりで、とても印象に残っています。着実に経験を積んでいますよね。
高山 JO1のメンバーは今年は映画でもドラマでも良く見ましたよね。月9「366日」の佐藤景瑚、金城碧海の「伝説の頭 翔」の演技もぶっ飛んでいて、良かったです。碧海の上をゆく怪演を見せたユーチューバー出身、カルマの存在が気になりましたけど(笑)。
ELLE 俳優業にも力を入れている豆原一成はSNSで考察合戦が繰り広げられた「海に眠るダイヤモンド」、バラエティでも大活躍の河野純喜も「あの子のこども」で初の地上波ドラマ出演と、話題作で着実に爪跡を残していると思います。
細谷 「虎に翼」はもちろんのこと、女性の連帯を感じさせる作品も今年の傾向と言えます。23年末から24年にかけての「SHUT UP」では苦学生の生活のディテールと連帯が描かれていましたし、ガールズアクションシリーズの一作「ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!」もそういった作品群のなかに入れていいと思います。
よしひろ 「SHUT UP」は昨年枠になっちゃうのかな? すっごくよかったですし、おっしゃるとおりあれこそ女性の連帯、ジェンダー格差の問題視に関して、トレンドメイクのきっかけになった作品じゃないかと思います。女性主人公のドラマだったら「団地のふたり」もよかったですよね。生まれ育った団地に出戻った幼馴染の二人を主軸に、高齢化問題を抱えた団地の人々をやさしい目線で描いたいいエピソード満載ドラマ。ムロツヨシさんの回が特に良かったな〜。ネタバレになるから言えないけど、展開、構成、美術、脚本どれをとってもエモかった。
伏線回収が秀逸すぎた大河ドラマ「光る君へ」
高山 女性主人公の大河は面白くない、当たらないという風評を吹き飛ばした大河ドラマ「光る君へ」についてもぜひ、語らせてください。何せ、キャスティングの伏線回収がすごくて、吉高由里子・柄本佑の二人は同じ大石静脚本の「知らなくていいコト」でも結ばれない恋人同士役でした。正妻役の黒木華は映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』でも柄本に浮気されるサレ妻を演じていますし、側室の瀧内公美は映画『火口のふたり』で柄本と腐れ縁の恋人です。加えて、「最愛」の吉高・松下洸平コンビに熱い視線が注がれるなど、俳優陣がこれまで積み上げてきたフィルモグラフィーが生きてくる布陣。彼らが演じた役柄の前前前世はここにあったのかと毎回、胸に込み上げてくるものがありました。
細谷 以前の作品がノイズになることもあるけれど、今回はうまくいったパターンですね。オーディションで天皇役を勝ち取った塩野瑛久のブレイクもついに日の目を見たかと喜ばしかったですし、三浦翔平の怪演も注目を集めました。
高山 毎熊克哉も少ない出演回数で爪痕を残しました。町田啓太、金田哲、渡辺大知、柄本の「平安のF4」も見逃せなかったです。芸人、ミュージシャン、ダンサーと表現の出自がバラバラの俳優たちが奏でる和音が毎回、心地よくて。婿取り婚というシステムも時代の先をいっていました。
よしひろ 社会も視聴者も、よりいろんな人が生きやすい価値観にアップデートしてきているから、作り手も当然、それが求められてますよね。そこに目くじらを立てる人もいるっちゃいるんですが、それこそ老害。テレビが主たる視聴者が求める懐古主義に陥ると、オールドメディアの負のスパイラルにハマるわけですから。もっと盛り上げるためにも、そして新しい俳優やスタッフの才能だけでなく、今後を見据えた価値観のインクルージョンをしてなんぼだと思うんですよね。それがフィクションであるドラマの役目。
ELLE 流行語となった「不適切にもほどがある!(ふてほど)」はどうでしょう? うちの娘も昔の人の当たり前にびっくりって驚いていました。様々な論争を巻き起こしましたが、過去と現在の落差の描写が世代の違う人たちのトークのきっかけを作ってくれたことは間違い無いですよね。
よしひろ いろんな意見があるけど、これこそまさにドラマの役目をいろんな側面から映し出した作品だったんじゃないかしら。俳優で言えば、河合優実が抜群だったことは間違い無いです。これまでミニシアター系の映画では注目株だったけど、それだけだったらここまで人気は浸透しなかったはず。あのドラマをきっかけに知名度爆上げで、今やCMにもバンバン。その一方で個性の強い映画にも出演し続けていて、好感度高いですよね。日本映画は近年、今の日本の問題を映し出すような重厚な社会派の作品が話題になる傾向にありますから、ドラマにはエンターテインメント性が求められているのではないでしょうか。社会派であっても、エンタメであるのがドラマという棲み分けもあるかもしれないですね。
細谷 代理母を題材にして女性の貧困を描いた「燕は戻ってこない」は、社会派のエンターテイメント作の筆頭と言えるかもしれません。地上波だけでも良作が揃っていますが、配信各社にも気になる作品が続々と登場して忙しいですよね(笑)。Leminoの「情事と事情」は冒頭シーンをワンカット長回しで撮っていたりと、映像の仕事がすごく丁寧でした。大根仁監督はNetflixと5年独占契約を結んだと報じられていますし、1月スタートの是枝裕和監督の「阿修羅のごとく」も楽しみです。
よしひろ 配信の作品は挑戦しているものが多い気がします。海外もそうですが、日本も映画・ドラマを行き来できる素地ができてきたと思っていて、スタッフだけでなく、俳優もそう。ドラマを観る楽しみが増えました。
ELLE 「虎に翼」は総集編が「光る君へ」は一挙放送が年末にあるので、配信ドラマともども、見逃したドラマを年末年始に一気見するのも一考ですね。