昨年韓国で観客動員数が5週連続1位という記録を出したアクション映画『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』は、9年前に大ヒットした映画『ベテラン』の第二弾。ファン・ジョンミン演じるソ・ドチョル刑事と彼が率いるチームが今回追うのは、法の穴をくぐり抜けた極悪人を処刑する謎の連続殺人鬼「ヘチ」。新人刑事として合流したのは、『となりのMr.パーフェクト』の記憶も新しい、あのチョン・ヘイン!今回は来日した主演の二人のインタビュー。国民的大スター、ファン・ジョンミンが、イケメン俳優チョン・ヘインにもっていたイメージとは?そして過酷なアクションシーンの撮影現場で、二人が考えていた全く同じことは?
ELLE まずは本作品の感想を。
ファン・ジョンミン(以下HJM) 1本目を撮ってからかなりの時間、9年という時間が経過をしているんですが、それでも観客のみなさんが前作のエネルギーをそのまま憶えてくださっている状況で、9年もたったっけ?というような感じだったんです。観客の心のなかで『ベテラン』という作品がしっかりと根づいていたんだなと感じました。私を含めた俳優陣や、関わってくださった皆さんが、今回の続編を前作の延長線上にあると考えています。もちろん物語の色合いなど異なる部分もありますが、そのような感覚で撮影に臨みました。私の場合、前作の衣装をそのまま使っていますしね。
ELLE ファン・ジョンミンさんは「もう一度この作品を作りたい」と思っていたんですか?
HJM 待っていたということはないんです、食べていくために他の作品もやらなきゃいけませんし(笑)。ただソ・ドチョルという人物を演じることはもちろん好きですし、フィルモグラフィーの中にこうしたシリーズを持てるというのは、映画俳優として特別な経験ですし、光栄なことですよね。
ELLE チョン・ヘインさんはいかがですか? 出演への思いと、悪役をどう演じようと思ったか教えて下さい。
チョン・へイン(以下JHI) 前作は観客として見ていましたので、この作品のオファーが来たときは本当に大きな幸運を得たと思いましたし、同時に「これまで本当に一生懸命やってきたことが報われたんだな」というような、万感が交錯するような思いでしたね。もちろんその分だけの大きなプレッシャーもありましたが、非常にいい環境でしたし、こうしてファン・ジョンミン先輩とご一緒したこともとても楽しかったです。本当にすべての瞬間が大変な撮影ではありましたが、一番はそこですね。やりがいもすごくありました。
今回演じたソヌ役は悪役ではありますが、僕自身は単純な悪役と思って演じてはいないんです。とにかく、何かしらの信念を持った人なんだというふうに考えて役を作りました。カメラの中に映る自分の姿というのは、ちょっと今までとは違うなというような思いはありましたが、「自分自身をこういうふうに見せたい」というようなことは考えませんでしたね。
ELLE あんなに不気味なチョン・ヘインさんを見たのは初めてでした。役の二面性のようなものを表現するプランやアイディアはあったのでしょうか?
JHI これまでの作品では、どちらかというと「清く正しい」というイメージの役柄が多かったので、観客の方には少し落差があったんじゃないかなと思います。でも人間って誰しも、その内面には大なり小なりの「悪」を持っていると思うんですね。ですから「自分の邪悪なところ」をもう最大限に引き出してやろうという風に考えながら演技していましたね。
ELLE 捜査チーム全員が入り乱れる雨の中でのアクションシーンがすごく印象に残っています。雨の中のアクションはそれだけでも危険ですが、かなり長いシーンでもありましたよね。何か記憶に残るエピソードはありましたか?
JHI (日本語で)めっちゃ寒い、です(笑)。
HJM エピソードがどうのというより、もうあまりに寒すぎて、とにかくこのシーンを早く終えて帰りたいという気持ちしかありませんでした。ほぼ1週間を夜通し撮影という感じでしたし、そんな中で誰一人としてケガをさせてはいけないと思いながら、慎重に撮影していました。
JHI 本当にその通りでしたね。正直な話、僕も本当に寒くて「家に何時に帰れるのかな」と、何度も時間をチェックしていましたね。待ち時間もどうにか我慢しながら過ごしていましたが、ライトが付いてアクション!の声がかかりカメラが回り始めると、なぜか取り憑かれたように妙な力が出て、集中して演技をすることができました。
HJM でも私たちはまだ良かったんですよ。一人ずつ対決していたので、他の人が撮影している間に休む時間があったから。かわいそうだったのは、あの場面で捜査チームに追い込まれて「一人vs多数」で戦っていたアン・ボヒョンさんですよ。
JHI 休憩まったくなしでしたから、本当に大変だったと思います。僕達は待ち時間があった分だけマシでしたね(笑)。
HJM 1月の一番寒い時期に、まるまる一週間雨に当たりっぱなしだったんですから。特別出演だったにも関わらず、あんなにも大変な目にあったので「監督にはもう二度と会いたくない」と言っているという噂です(笑)。
JHI 本当に寒い時期でしたね。一番気温が低かったのは南山タワーの追跡劇の場面で、確かマイナス19度でした。
ELLE ちなみにチョン・ヘインさんは雨の場面で落下もしていましたよね。
JHI そうでしたね。でもあそこは全然問題ではなかったですね。観客の方たちには「このシーン大変だな、この危険だな、顔が歪むほどの衝撃を受けているシーンだな」と、とても心配しながら見てくださっていると思いますが、リハーサルも入念にやり、安全対策もきちんと整えた上でやっていますから。大事なのは怖がらないこと。スタントでもアクションでもワイヤーでも、全てを信じて飛び込むこと。どうしよう、大丈夫かなと不安を抱えながらやると逆にダメなんです。怖がりだったり、心配性だったりする方にはもしかしたら向かないかもしれませんね。
HJM 私ですか?顔を見てもらえばわかりますよね、怖いものはなにもないです(笑)。
ELLE 共演してみて、相手の演技や存在感で強く印象に残ったイメージ、場面などがあれば教えて下さい。
JHI ファン・ジョンミン先輩には、撮影が始まる前から撮影が終わるまでずっと、本当に可愛がっていただきました。まるで空気のように当たり前に、愛情を肌で感じさせてくださったという印象です。最も心に残っているのは、僕がバストアップでカメラに向かって演技をしていた時のことですね。僕が演じている時に、カメラの向こう側に先輩が立って演技してくださっていたんです。普通なら、自分の演じる場面が終わればリラックスしたり、カメラの向こう側にいて下さるにしても、軽く流すような演技になる方も多いと思うんですが、先輩は絶対にそうではなく、手を抜かない本気の演技をして下さったんですね。先輩がそうやって空気を作ってくださったので、僕はその姿を見ながら自然に演じることができました。
撮影において、主演俳優は現場を盛り上げることも必要ですが、時にはあえて緊張感を誘発することも必要です。危険を伴うシーンとか重要な場面では、みんなが緊張感をもって収集して望まなければいけないんですよね。そういう時に主演俳優として現場をリードしてくれる姿を見ながら、主演俳優、座長というのはこういうことをしなければいけないんだなということを、いろいろな事を考えさせられました。
HJM 私の方は、まずこの作品のソヌという役にチョン・ヘインさんが手を上げてくれたこと、それ自体がもろ手を挙げて歓迎すべきことでした。俳優にとって悪役というのは演じることは非常にプレッシャーが大きいものなんです。特に前作においては、ユ・アインさんが演じた悪役が非常に大きな注目を集めていましたから、「比べられたらどうしよう」とか「あそこまで演じきることができるだろうか」というような、いろいろなことがプレッシャーになると思うんです。そう言う中であっても、手を上げてくれることには大きな覚悟が必要だったんじゃないかと。いざ撮影が始まってみて、彼に対するやりづらさとか大変さというのがまったくなかったのは、彼のそう言う覚悟があったからだと思います。
JHI プレッシャーはありましたが、どんなことであれ物事には全てタイミングというのがあるじゃないですか。ですからその時々に合わせて自分ができることをやっていくものだというふうに思っているんですよね。過去の自分の上に今の自分があり、同時に年も重ねている、その立ち位置で、自分に任されたことをやっていくことなのかなと思います。
HJM 印象的だったのは、世の中がヘインさんに対して持っているイメージとは、ちょっと異なる部分がある人物だったことでしょうか。共演してみると非常に男性的でパワフルなんですよ。いわゆる「男」というような印象を強くもちました。画面越しに見るヘインさんは、美少年でちょっと柔和なイメージじゃないですか。
JHI 美少年というには……もう30代後半なので(笑)。
PROFILE
ファン・ジョンミン/1970年9月1日生まれ。舞台出身の実力派俳優で、自然体の演技と圧倒的な存在感で知られる。映画『国際市場で逢いましょう』や『新しき世界』で高い評価を受け、韓国映画界を代表する存在に。近年は『極限境界線-救出までの18日間-』『ソウルの春』などに出演。
チョン・へイン/1988年4月1日生まれ。大学で演劇を学び、2014年にドラマで本格デビュー。透明感のあるルックスと繊細な演技で注目され、『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』で人気を確立。近作は『スノードロップ』『D.P. −脱走兵追跡官−』『となりのMr.パーフェクト』など。
『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』
監督:リュ・スンワン
脚本:リュ・スンワン、イ・ウォンジェ
出演:ファン・ジョンミン、チョン・へイン、アン・ボヒョン、オ・ダルス、チャン・ユンジュ、オ・デファン、キム・シフ、シン・スンファン
2025年4月11日(金)より公開。