音楽シーンにおいて、さらなる存在感を発揮するクィア女性アーティスト

クィア女性は常に音楽業界に存在してその存在感を示してきたけれど、最近の音楽は従来のものとは全く異なる。大胆かつ堂々としていて、かつて音楽界のメインストリームの頂点に君臨していた“異性愛規範”を積極的に壊しに行っているのだ。

2025年、チャペル・ローンとラッパーのドーチがグラミー賞を受賞し、シンシア・エリヴォはEGOT達成こそ逃したものの『ウィキッド』で各授賞式のノミネートを席巻、レディー・ガガは約5年ぶりのニューアルバム『MAYHEM』でカムバック、そしてビリー・アイリッシュは相変わらず頂点に立ち続けている…つまり、音楽業界におけるクィア女性の影響力は2024年から増す一方である。彼女たちは音楽の未来を再定義しているだけでなく、ファッション業界やカルチャートレンドをけん引し、それらの交流を促進している。そして何より重要なのは、音楽とそのストーリーにおける新時代を築いているということ。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Charli xcx - Guess featuring billie eilish (official video)
Charli xcx - Guess featuring billie eilish (official video) thumnail
Watch onWatch on YouTube

2024年、ビリー・アイリッシュはシングル「Lunch」やチャーリー・XCXとの「Guess」でのまるで口説いているかのように歌ってみせたフィーチャリングで、チャペル・ローンは「Good Luck Babe!」での自分の本心に向き合わないことへの事前警告や「Casual」での心が痛くなるような報われない恋の描写を通し、クィア女性としてのアイデンティティを歌にのせた。ドーチのミックステープ「Alligator Bited Never Heal」ではゲイの黒人女性であることをオープンに語り、それはタイラー・ザ・クリエイターとのコラボ曲「Balloon」で再び見られる。

これらの楽曲に共通するのは、女性のセクシュアリティや感情の複雑な性質に焦点を当て、斬新な方法かつ検閲なしに、クィアな人間関係のダイナミクスを生き生きと多面的に探求しているということ。それが拒絶や絶望、あるいは憧れや献身であれ、今のクィア女性アーティストが築く新時代においてどんなものも見逃すことはできない。

ビリー・アイリッシュは、スケートカルチャーやストリートにインスパイアされた衣装でバギーシルエット、カラフルなヘアスタイル、派手なプリントなどZ世代トレンドを牽引してきた。彼女のスタイルは、特に人前に出る女性に向けられる性的対象化やミソジニー(女性蔑視)に対抗する姿勢の現れでもある。

billie eilish at the 66th grammy awards
Matt Winkelmeyer//Getty Images

2024年に大躍進を遂げた新進アーティストのカリスマ性と影響力

ファッションからビューティまで、クィア女性アーティストの言動はカルチャーに多大な影響力を誇り、規範からの逸脱に挑戦し続けている。ドラァグクイーンにインスパイアされたさまざまなキャラクターを演じるチャペル・ローン。2024年の躍進とともにステージを観る機会も増えたわけだけど、彼女があるトーク番組で「スタイリストのジェネシス・ウェブと私は、ドラァグクイーンやホラー映画、バーレスク、演劇などからインスピレーションを得ていて、見栄えの良さと同時に怖さを与えるようなルックが大好き」と語ったところ、どのような影響があったのだろうか?  チャペルのコンサートに、彼女を彷彿とさせるデコラティブな服装や完全再現したメイク&衣装をまとった熱狂的なファンが押し寄せるのだ。

67th annual grammy awards show
Kevin Winter//Getty Images

“スワンプ・プリンセス”ことドーチも同様。アースカラーを基調とし、フェミニンとマスキュリンな構造を逆手に取った彼女の楽しくてプレッピーな衣装は、ファンやファッション関係者を虜にする。クィア・ミュージシャンがこれまで以上に注目され、称賛されていると主張するのは簡単だが、このような率直なストーリーテリングの流れは突然生まれたわけではない。従来の男性・女性という規範と一致しない性的アイデンティティを持つアーティストや多くの女性アーティストは、今も困難と向き合い続けている。

the 67th annual grammy awards
CBS Photo Archive//Getty Images

標準化された“女性ポップスター”像と戦い続けるスターたち

新進のクィア・アーティストにとって障害は山積み。長年にわたってクィア・カルチャーが世間一般で過剰に性的対象化されてきたことで、偏った報道や批評を受ける可能性がある。例えばレディー・ガガは、世界を代表するポップスターの一人かもしれないが、キャリアの初期はその表現方法に対する批判や軽蔑で溢れていた。

2008年にガガのキャリアが飛躍したとき、写真撮影で体の露出を増やすなど、標準化された、過度にセクシャルな女性ポップスターの型にはまることをレコード会社に求められた過去を明かした。「私のアルバムのジャケットは全然性的じゃなかったけれど、それがレーベルにとっては問題だった。何カ月も戦って、会議で泣いたわ。彼らは写真が十分に商業的だとは思っていなかったの」

そこで、業界の圧力に反発するために彼女は自分なりの表現方法で肌を見せることにした。「セクシーであることやポップであることを求められたりしたとき、『自分が主導権を握っている』と感じられるような、斬新なひと捻りを毎回加えていました」

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Lady Gaga - Born This Way (Official Music Video)
Lady Gaga - Born This Way (Official Music Video) thumnail
Watch onWatch on YouTube

生物学的に男性として生まれたという疑惑が飛び交っていたときでさえ、大胆なファッションやオーバーサイズの肩パッド、そして標準に合わせることを拒否する姿勢を貫いた。

lady gaga 2010 mtv video music awards
Kevin Winter//Getty Images

米メディアにおけるドラッグクイーンの悪者扱いは、クィア女性のストーリーに対する批判とさほど変わらない。普遍化されていた男性主義的な社会の中で、異性愛という性的指向のみの正当性を増長させるメディアの基準に倣っている。

メディアだけではなく、クィアアーティストは厳格で保守的なレコード会社や授賞団体の複雑なシステムをうまく切り抜けることも余儀なくされている。彼女たちのセンスと表現、反骨精神に溢れるストーリー、ジャンルを超えたサウンドにはダブルスタンダードが存在しているにも関わらず、商業的な期待やTikTokの台頭で煽られた業界の圧力から免れることができないのだ(参照:Doechiiのシングル「Denial Is A River」の2番)。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Doechii - DENIAL IS A RIVER
Doechii - DENIAL IS A RIVER thumnail
Watch onWatch on YouTube

しかし、2025年のプレイリストから学んだことがあるとすれば、音楽界における女性の成功とは、もはや特定の美学やジャンルに押し込めるものではないということ。クィアアーティストが自身のコミュニティと豊かなつながりを築き、独創的で魅力的なサウンドで商業的に成功するキャリアを続けていくためには、いばらの道を進んで自ら道を切り開くことが不可欠であるのだろう。

From: ELLE UK