2024年10月31日(木)~11月3日(日)の4日間(一般公開は11月1日~3日)、世界各国の現代美術作品が集う日本最大級の国際的アートフェア、「ACK」こと「Art Collaboration Kyoto」が京都で開催。美術関係者やアートコレクターはもちろん、ファッション関係者や若い世代など多彩なバックグラウンドの人々が足を運び、来場者数は約2万3000人を超えた。

4回目を迎え、「秋は京都でACK」との呼び声が高まりつつあるACKの魅力とは? 出展アーティストやギャラリストからのメッセージと会場の写真とともに、京都発のアートフェアの熱気をリポート。


コラボレーションから生まれるシナジー

Art Collaboration Kyoto(ACK)は、その名のとおり「コラボレーション」がコンセプトの現代美術に特化したアートフェアだ。国内と海外、行政と民間、美術とその他の領域など、さまざまな分野とのコラボレーションから生まれるシナジーが好評を呼び、その認知度や期待は年々高まっている。

今年は世界18カ国24都市から計69ギャラリーが参加。建築設計事務所「SUO」の周防貴之氏が空間デザインを手がけたメイン会場となる国立京都国際会館では、日本のギャラリーが海外のギャラリーをゲストに迎え、ひとつのブースをシェアして出展する「ギャラリーコラボレーション」と、京都にゆかりのある国内外のアーティストや作品を紹介する「キョウトミーティング」の2つのセクションが設けられた。

今回のブースは、格子状の基本構造で統一しながらも、出展ギャラリーがカスタマイズできるようになっているのが特徴。

パブリックプログラム展示、トークイベント、キッズプログラムなど、幅広い層に向けて開催されるプログラム「ACK Curates」の今回のテーマは、「Resilience」(レジリエンス)。2023年に続きACKのプログラムディレクターを務めた山下有佳子氏は、このテーマに込めた思いをオープニングセレモニーで次のように語った。

「レジリエンスは、さまざまなものが紆余曲折を繰り返しながら維持され、いろんなことを経験しながらも耐え抜いていくような意味を持ちます。今、私たちは先の見えない不安に駆られることが多い時代を生きています」

「京都は祇園祭など千年続いてきたお祭や伝統がありながらも、時代とともにいろいろなことに順応してきました。そこには、しなやかに一人ひとりがつなぐ意志を持って集まっています。そんな京都の強さを体感していただきたいと思い、プログラムを作って参りました」

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Makoto Ito
オープニングセレモニーでの山下有佳子氏。「紅葉にはすこし早いですが、秋を楽しんでいただけたら」という思いを込め、祖母から譲り受けたという紅葉を彷彿とさせる着物をまとい来場者を迎えた。

国内外の69ギャラリーが参加!海外からの注目度もさらに高く

海外からの来場者が多いことも、ACKの特筆すべき点のひとつだ。内覧日は各ブースで英語やその他の外国語が行き交い、コレクターらしき人がギャラリストに作品について熱心に尋ねる姿もそこかしこに見受けられた。

初回から出展しているTARO NASUは、かねてより親交があったニューヨークのMatthew Marks Galleryとコラボレート。コンセプチュアルアートの牽引者として知られるマルセル・ブロータースや、タイポグラフィで知られるローレンス・ウィナー、そして彼らと同時代の作家たちの作品が並ぶ。

TARO NASUの細井眞子氏は、「ACKは“ファンフェア”としての側面もあるので、できるだけいらした方に楽しんでいただけるような面白い展示を心がけています」と語る。

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Makoto Ito
中央にあるのは、“アプロプリエーションの女王”との異名を持つスターテヴァントの立体作品。壁にかかっているのは、左からマルセル・ブロータースの作品、2024年に制作された田島美加の『Art d’Ameublement (Pulo Tikus)』、エルズワース・ケリーの『Black White』。

コラボレーションでの出展は初となるタグチファインアートは、ミラノのDep Art Galleryと、ともにリプレゼントしているドイツのライトアーティスト、レギーネ・シューマンの作品を展示。

蛍光顔料が流し込まれたアクリル板の作品にブラックライトを当てると光り、来場者は定常光とブラックライト、2通りの見え方を楽しんでいた。ブースの外壁には、カイカイキキやニューヨークで研鑽を積んだ塚本暁宣のカラフルなペインティングが並ぶ。

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Makoto Ito
タグチファインアートとDep Art Galleryのブースに設置された、ブラックライト下でのレギーネ・シューマンの作品。色彩や光、空間によって表情が変わる。

いっぽう小山登美夫ギャラリーは今回、台北のEach Modernとタッグを組む。中央に置かれた桃の造形物は、台湾の代表的な現代水墨画家のひとりツェン・チェンイン(曾建穎)のペインティングだ。「この『寒山拾得』はACKのために特別に作りました。唐代のクレイジーで型破りな僧侶2人をモチーフにしています。古くからたくさんの禅僧がこの2人を描いていますが、形を私なりに現代風に解釈して制作しています」とツェン。

そして、川島秀明、2021年に逝去した桑原正彦、中園孔二のペインティングが並ぶ。

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Makoto Ito
台北のEach Modernから出展したツェン・チェンイン。中国の伝統的な絵画や宗教画で扱われる素材やモチーフを用いている。

ユミコチバアソシエイツとニューヨークのCastelli Galleryでは、金氏徹平とリチャード・ペティボーンによる、ある意味作家のコラボレーションともいえる作品が並んだ。

金氏は2023年より取り組んでいる、自身が影響を受けた作家のイメージを引用したコラージュシリーズの新作を発表。既存の作品のミニチュアを作るペティボーンへのオマージュとして、ペティボーンがモチーフによく使っていたウォーホルやデュシャンなどの作品を用いた。凹凸や厚みのある物質にプリントする印刷技術を使って制作され、複雑な層構造からなる金氏のシリーズに、新たな息吹が加わった。

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Makoto Ito
「ペティボーンの作品と自分の作品はコンセプト的に合う部分があるので、同じものが流れている気がします」と自身の作品を前に金氏徹平は言う。

また、ANOMALYは、中国・成都のA Thousand Plateaus Art Spaceと韓国・ソウルのN/Aと三つ巴で、「記憶」をテーマに、岩崎貴宏、津上みゆき、ウ・イーファン(武芸凡)、チェン・チウリン(陳秋林)、ハーディ・ヒル、ジユン・チュン、ジェマン・ソの作品を展示。京都で学生時代を過ごしたという津上は、2023年11月に京都に滞在した際のスケッチをもとに制作したペインティングを中心に並べた。

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Makoto Ito
昨秋に京都で見た紅葉と早咲きの桜のスケッチをモチーフにした作品の前で、「京都は定期的に来たくなる場所」と話す津上みゆき。

2回目の出展となるシュウゴアーツは、2023年と同じく台北のTKG+とブースをシェア。全体のテーマを「抽象」とし、香港のリー・キット(李傑)、台湾のチウ・チョンホン(邱承宏)、タイのミット・ジャイイン(彌載映)、日本の森村泰昌や小林正人など、アジアの現代アーティストの作品が一堂に会した。

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Makoto Ito
「Progressive Failure」と描かれたTシャツが、まるで洗濯物のように干されているリー・キットの作品。
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Makoto Ito
台湾出身のジャム・ウー(吳耿禎)は、台湾やフィリピンなど東南アジアの文化や芸術に関する本のページを切り抜き編み込んだ。

そして、今回初参加となるMUJIN-TO Productionは、ロサンゼルスのNonaka-HillとパリのCrèvecœurとのコラボレーションだ。MUJIN-TO Productionは風間サチコ、臼井良平、小泉明郎の作品を出展。

Nonaka-Hillは、内覧会前日の10月30日に京都の古美術商が並ぶ新門前通りにギャラリーをオープンしたばかり。出津京子の新作や、ブラジル・サンパウロ出身で日本人移民の両親のもとに生まれ、その後アメリカで美術を学んだケンジ・シオカヴァらの作品が並ぶ。Crèvecœurは首藤直輝、ルイーズ・サルトル、エルンスト・耀司・イエーガー&濱田泰彰の作品を展示。

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Makoto Ito
繊密なタッチや白黒の濃淡の多様さが目を引く、MUJIN-TO Productionの風間サチコの作品。
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Makoto Ito
Nonaka-Hillより、まるでブースの構造物である格子と呼応しているかのようなケンジ・シオカヴァの作品。

特定の場所を持たずに2022年よりギャラリーを始め、カラオケボックスやエレベーターでも展示を行っていたという異色の経歴を持つGalerie Tenko Presents は、ニューヨークのReena Spaulings Fine Artと共に作家を紹介。

写真を分割しブロックごとに描いた、まるで絵のようなアラン・マイケルの写真作品や、クララ・リデンによる、ニューヨークのある建物の屋根の一部だったものを展示した作品など、ギャラリーオーナーである中島点子の遊び心が光る空間構成となった。

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Makoto Ito
壁にかかった作品はReena Spaulings Fine Artの創設者でもあるエミリー・サンドブラッド作、手前はペーター・フィッシュリの作品。
「どうやったらACKに出展できるのか?」と海外のギャラリーから聞かれることも

京都を拠点とし3回目の出展となる思文閣が今年コラボレーターとして声をかけたのは、メキシコシティのkurimanzuttoだ。南米のギャラリーと組むのは初めてながら、日本文化に通じるものを感じたそう。

「不思議なもので、時代と地域を隔てても同じ作家の作品に見えるようなシナジーがあります」と思文閣の山内德太郎氏は言う。地元の老舗ギャラリーから見たACKの所感を尋ねたところ、「ユニークなコンセプトで中小規模のフェアをするのが京都らしい。海外のフェアに行くと、『どうしたらACKに出展することができるのか』と聞かれます。作家同士の交流が生まれるのもいいですよね」とのこと。海外ギャラリーからの期待の高まりを感じさせられる。

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Makoto Ito
思文閣が出展した『源平合戦図屏風』。江戸時代前期~中期のもの。手前は、kurimanzuttoが出展したダン・ボーがメキシコで制作した大皿や、韓国のヘイグ・ヤンの立体作品など。

名勝や通常非公開の会場でも作品を楽しめる

“京都らしさ”を同時に味わえるのが、ACKの魅力でもある。今回初めてACKと同時開催される展覧会の会場となった、日本庭園の名勝・無鄰菴では、アンドレアス・エリクソンが2024年5月に京都を訪れ、京都の四季に思いを馳せ描いた作品を展示。母国スウェーデンと日本の伝統的な風景のダイアローグというべき作品が、静謐な時間が流れる床の間や茶室に不思議と調和していた。

ack 無鄰菴
Installation view: Andreas Eriksson, “Rakuyou”, Murin-an, Kyoto, October 31 - November 3, 2024 © Andreas Eriksson. Courtesy the artist and neugerriemschneider, Berlin. Photo: Yuki Moriya
明治27~29(1894~1896)年に造営された明治・大正時代の政治家・山縣有朋の別荘である無鄰菴の床の間に展示されたアンドレアス・エリクソンの作品のひとつ。国際会館での「キョウトミーティング」でも同シリーズ作品を展示した。

同じく初めて会場となった、通常非公開の京都市京セラ美術館本館2階の貴賓室では、特別展示として山内祥太の個展『結晶世界』を開催。「金」をモチーフとし、「中庸(Golden Mean)」をテーマに、生と死、動と静の間に位置する新しい状態を象徴した映像作品や立体作品が、スペシャルインスタレーションとして展示された。

現代美術の最前線にふれる!アートフェア「ack」を現地リポート
Hiroshi Tanimoto
『結晶世界』の展示風景。映像作品では、3DCGを用いて世界の始まりと終わりを描いた。彫刻作品では2人の人物像と蛇が金に覆われ、結晶化が進む様子を立体的に表現。

プログラムディレクターが語る、ACKの現在地と展望

第4回のACKを終え、プログラムディレクターを務めた山下有佳子氏にインタビューを行い、今回のACKの感想と、次回の開催に向けて掲げる目標を聞いた。

——プログラムディレクターとして3度目のACK参加、今年の手応えはいかがでしたか? これまでとの違いや変化をどのように感じられましたか?

毎年とても高い評価をいただいていますが、リピーターの方から「今年がいちばんよかった」というお声をいただいています。世界トップクラスの作品が揃い、国内外のトップコレクターや、美術館のパトロングループも来てくださいました。「秋は京都、秋はACK」と、海外の名だたるアートフェアと肩を並べてグローバルアートカレンダーで着実に取りあげられるようになり、ACKが世界の何百とあるアートフェアのなかでも特に美しく、そして質の高いアートフェアであるという立ち位置を確立できたように思います。

そして、ファッションやエンターテインメントが好きな方や若い方が来場し、「アートフェアに初めて来ました」というお声も聞き、来場者に多様性が生まれつつあるのを感じます。次世代への貢献がACKの課題でもあるので、嬉しく思います。

——現代アート界の今の動きやトレンドにおいて、変化や気付きはありますか? 2024年らしい現代アート界の特徴があるとしたら、それは何でしょうか?

現在の世界のアート市況は大盛況とは言えませんが、今年のACKは若い世代や新たなコレクターが多く参入され、作品の売れ行きはとても好調でした。単品で45万~55万USドル(約6900万円~8500万円)ほどに値付けされている作品が売れていたり、10点以上作品が売れていたりしたブースもありました。

世界のアート市場でいうと、3、4年前は、人気とされる作家の名前だけで判断し、20代、30代の若いアーティストを買う傾向がありました。ですが、今は世界全体の先行きが非常に不透明になってきているので、コレクターたちのメンタリティとして「買って自分が心地いいか」ということや、若手・中堅・大御所に限らず作品の中にしっかりと核があるかが重要視されている気がします。プレッシャーを感じず、買いやすい雰囲気が高まっているのかもしれません。この半年ほどは、「新しければいい」ということではなく、歴史的価値をみなさんが注意深く見ていらっしゃる気もします。

——個人的に今回印象に残った展示や作品、作家さんがいましたらお聞かせください。

ACKがあることで、アーティストのみなさんに制作の機会を提供できていることが個人的にとても嬉しいです。パブリックプログラムで会場の正面玄関に作品が飾られていたリー・キットさんは、この展示のためだけに来日され、わずか24時間ほど京都に滞在されました。作品は一見ただの洗濯物に見えますが、実はその中に強いメッセージが込められています。

また、Tanya Bonakdar Galleryという、世界トップとも言われているニューヨークのギャラリーが今回初めて出展してくださいました。同じブースのSCAI THE BATHHOUSEから出展したヘ・シャンユさんがACKのブースにいらっしゃって新作を準備・展示された点も、まさにACKならではの光景であり、強さでもあると思います。

BlumFoksal Gallery Foundationのブースの西條茜さんや、KANEGAETHE SHOPHOUSEのブース、「キョウトミーティング」のYUMEKOUBOU GALLERYなど、若手のセラミック作品が増えており、実際によく動いていました。

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Photo: Nobutada Omote
壁面に並ぶのは、Tanya Bonakdar Galleryのアナリア・サバンの作品群で、左壁の大きな作品は編み物でコンピューターのグラフィックボードの形状を表象している。手前右の立体作品はSCAI THE BATHHOUSEのヘ・シャンユ作。ル・コルビュジエのユニテ・ダビタシオン(集合住宅)を模した構造物をレッドブルの空き缶を用いて制作し、母国中国でこの数十年推し進められた近代化をシニカルに表現。手前左もヘ・シャンユによるもので、都市計画の青写真や、いたるところに散らばった建設廃材を彷彿とさせる2点組の作品の1点。不穏な鋭さが細長い影へと圧縮され、都市の裂け目のような様相を呈している。

——京都出身、もしくは京都とゆかりのある作家さんの作品をとりあげているギャラリーがいくつかあったのが印象的でした。京都で開催しているACKならではの傾向がありましたら、お聞かせください。

開催地・京都とのローカルエンゲージメントを非常に大切にしているので、初年度から「キョウトミーティング」という京都にゆかりのある展示をするセクションがあります。

今回は、先ほどのヘ・シャンユさんやアンドレアス・エリクソンさんなど海外のアーティストの個展を、無鄰菴や曼殊院といった、京都ならではの歴史的な建築物にて開催していただきました。ACKを通じて京都でしか体験できない時間や景色を届けるべく、寺社仏閣での展示や歴史を生かした手法を取り入れることも大事にしています。

——今だから明かせる今回の秘話・こぼれ話などエピソードはありますか?

今年は会期中に台風が接近し、東京からの新幹線が止まるほどの大雨で、会場運営にも支障をきたす恐れがありました。地元レストランの方々にご協力いただいているフードエリアでは、テントの屋根に溜まった雨水を5~10分ごとに排水しなければなりませんでしたが、日本のみなさんはプロフェッショナリズムが世界に比べても非常に高いため、大きなトラブルもなく進みました。

運営に携わってくださっている何百ものプロフェッショナルの方々により、ACKが成り立っていることをいっそう感じた年でした。

——2025年のACKに向けての目標をお聞かせください。

お客様に「毎年よくなっているね」と言っていただけるところがACKの強みなので、来年も前進が見られる年にしたいです。引き続き世界的に質の高いアートに出合える場を作り、優れた審美眼を持つ方たちが集まることを維持し、京都でしか見られない景色や京都でしか味わえない体験を継続してみなさんにお届けしたいです。

そしてACKの会期中は、行政も民間も分け隔てなく、アートスポットはもちろん、音楽や飲食など京都市内で一丸となり、みんなで盛り上げようという気運が生まれています。その高まりも、来年はいっそう深めていきたいです。

山下有佳子
2022年よりACKのプログラムディレクターを務める山下有佳子氏は、1988年東京都生まれ。京都で茶道具商を営む家庭に生まれる。慶應義塾大学卒業後、ロンドンのサザビーズ・インスティチュート・オブ・アートで学び、サザビーズロンドンでのインターンを経てサザビーズジャパンに在籍。2017年にギャラリー「THE CLUB」を設立し、2020~2023年には京都芸術大学の客員教授を務める。2022年に、ACKプログラムディレクター、および京都市成長戦略推進アドバイザーに就任。


※第5回のACKは、2025年11月14日(金)~16日(日)に実施予定。京都を象徴するアートフェアとして前進し続けるこのイベントに、ぜひ足を運んでみて。

Art Collaboration Kyoto 公式サイト

Edit: Joji Inoue