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モダン陶芸 simone bodmer turner シモーネ・ボドマー=ターナー
SCOTT MACDONOUGH

今注目すべき、モダンな陶芸家シモーネ・ボドマー=ターナーとは?

アメリカ・マサチューセッツを拠点に活動する、気鋭の陶芸家にインタビュー。来日経験もある彼女の陶芸に対する想いに迫る。

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柔軟な視点で陶芸を捉え、独自性の高い作品を発表する気鋭作家に注目。陶芸とデザインの未来を感じさせる制作活動に迫る。「エル・デコ」2025年6月号より。

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モダン陶芸 simone bodmer turner シモーネ・ボドマー=ターナー
SCOTT MACDONOUGH

ニューヨークのブルックリンで創作活動を始め、現在は自然豊かなマサチューセッツを拠点にする陶芸家でデザイナーのシモーネ・ボドマー=ターナー。有機的なラインと白を基調とした作品は、静謐な佇まいのなかにも力強さを感じさせる。

カリフォルニアで生まれた彼女は子どもの頃から絵を描くのが好きで、アレクサンダー・カルダーやアンリ・マティスの本に囲まれて育った。大学卒業後はニューヨークでスタートアップ企業に就職。程なく陶芸との出合いが訪れる。「小さなアパートにルームメイトたちと住んでいました。多忙な日々のなか、クリエイティブなことをして息抜きしたい、という思いが芽生え、趣味でブルックリンの陶芸教室に通い始めたんです」

<写真>シモーネ・ボドマー=ターナーのスタジオで撮った有機的なデザインが特徴的な“チェア”シリーズ。陶製で表面はマット。スタジオを構えたマサチューセッツ州は陶芸、鉄工、ブロンズなどアート&クラフトのコミュニティが多い。

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その後2016年に群馬県藤岡市で行われた海外アーティストたちに滞在制作の場を提供する「シロオニスタジオ」のプログラムに参加。12週間のうち前半は藍染めや刺し子などの伝統技術を学び、後半は陶芸に集中して信楽や伊賀の土を使い初めての穴窯焼成も体験した。

「何が出てくるかわからない窯の神秘に心をつかまれ、本格的に陶芸の道に進もうと決めました」

<写真>最新作の“スペード ベッセルズ”。「5年ぶりの花器は周囲を野花に囲まれたマサチューセッツでデザインしたこともあり口は広く、草花がこぼれ出すような、ラフで豊かな表現を意図しています」とボドマー=ターナー。

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作品のインスピレーション源についてはこう語る。「今では私のシグネチャーとなっている初期の作品は、世界各地の古代文明で散見される水くみ用のつぼから着想しました。地理的に離れたさまざまな文化圏でも、同じような形のつぼが生まれたことを知り、感銘を受けたんです」
 
20世紀のモダニズム彫刻やアールデコ、もの派、シュールレアリスムにも影響を受けていると語るボドマー=ターナー。作品の多くには白の釉薬が使われており、作品の彫刻的なフォルムを際立たせている。

「白はキャンバスのようにどんな空間にも調和する普遍性があります。過去には黒い釉薬を使った作品があり、それを再制作する予定もあります。新作では青磁のニュアンスのある中間色にもチャレンジしています」

<写真>サイ・トゥオンブリーのドローイングから着想したという彫刻的なストレージ“MementoCredenza(メメント クレデンザ)”。

モダン陶芸 simone bodmer turner シモーネ・ボドマー=ターナー
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2022年にニューヨークを離れ、マサチューセッツへ移住。最初の1年は窯を持たず創作の可能性を探った。それまでの道具や方法が使えないからこそ、新しい素材との出合いもあったと語る。「土にこだわらず、ブロンズや木工など地元のクラフト職人たちと協働しながら、自らのスタイルを再構築しました」

<写真>友人と共に内装をつくり上げた移転前のブルックリンのスタジオ。




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その成果は2024年に開催された『A YearWithout a Kiln(窯のない1年)』と題された個展で発表され、焼き物を超えて拡張する彼女のアーティスティックな造形表現が浮き彫りになった。インスタグラムで知り合ったブルックリン在住の金継ぎ作家の軍司裕子とは、陶芸作品の修復を依頼したのを機に親交を深め、漆を使った家具を共作した。

<写真>マサチューセッツの木工作家ローラ・ペッパーと制作したテーブルに、ブルックリン在住の軍司裕子が漆仕上げを施した作品。 

モダン陶芸 simone bodmer turner シモーネ・ボドマー=ターナー
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現在は工場跡に構えたスタジオへ週に数日通い、それ以外の日は自宅の仕事場でデザインや試作に取り組んでいる。自然とのつながりも大事にし、毎日愛犬と森を散歩したり、パートナーと一緒に庭仕事をしたりしながら日々のリズムを整えるという。「意図的に休むことも制作の一部。時にWi-Fiを設置したことを後悔することもあります」

情報過多の時代に生きるクリエイターとしてはあえてインターネットとつながらない時間を意識的に持ちながら、自分自身の根本にある感覚に立ち戻ることを大切にしている。

<写真>パートナーのスコット・マクドノーと。撮影や展示空間の設計までを担い、彼女のクリエイティブビジョンを具現化する重要な存在。

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日常の生活に根差し、世界各地の文化や美学とも響き合うボドマー=ターナーの作品。その有機的なフォルムは、陶芸はもとより家具やインテリアデザインにおいても通ずる造形美を放ち、大きな可能性を秘めている。


Simone Bodmer-Turner(シモーネ・ボドマー=ターナー)
アメリカ、カリフォルニア州生まれ。2018年にスタジオを設立、現在はマサチューセッツ在住。白を基調とした陶芸で知られ最近は鋳造や木工を組み合わせた制作も行う。
公式サイト

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『エル・デコ』2025年6月号

エル・デコ6月号
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