アート好きなら見るべき『瀬戸内国際芸術祭』の作品30
草間彌生にジュリアン・オピー、SANAA、藤本壮介など、2025年に開幕する『瀬戸内国際芸術祭』に向けて、現在も見られる過去の出展作品や常設のベネッセアートサイト直島の作品をおさらい。

瀬戸内海に浮かぶ12の島と2つの港を舞台に3年に1度開催される『瀬戸内国際芸術祭 2025』の開幕を前に、アートな旅の目的地として、人気の瀬戸内エリアで特に見逃せない作品を『エル・デコ』が厳選。2025年の『瀬戸内国際芸術祭』で公開される新作を楽しみにしつつ、今年の夏旅の参考にチェックしてみて。
草間彌生《赤かぼちゃ》/直島

フェリーで直島の宮浦港に近づくと、真っ先に目に入るのが、この《赤かぼちゃ》。草間彌生による作品の特徴である水玉のいくつかはくり抜かれており、そこから内部に入ることができる。草間は本作について「太陽の『赤い光』を宇宙の果てまで探してきて、それは直島の海の中で赤カボチャに変身してしまった」と語っている。
<写真>草間彌生「赤かぼちゃ」2006年 直島・宮浦港緑地 ©YAYOI KUSAMA photo : Daisuke Aochi
※画像転載不可
藤本壮介《直島パヴィリオン》/直島

海に浮かぶ島や船が空中に浮いた島のように見える蜃気楼の一種「浮島現象」をかたどった、浮遊感のあるパヴィリオン。建築家の藤本壮介が、大小27の島々で構成される直島町の「28番目の島」というコンセプトのもとで設計し、2015年から展示されている。素材として使われているのは、約250枚の三角形のステンレス製メッシュ。内側に入ることができ、夜間はライトアップされる。
<写真>直島パヴィリオン 所有者:直島町 設計:藤本壮介建築設計事務所 Photo : Jin Fukuda
ジョゼ・デ・ギマランイス 《BUNRAKU PUPPET》/直島

ポルトガル出身のアーティスト、ジョゼ・デ・ギマランイスが、2006年に完成させた立体作品。直島で受け継がれる「直島女文楽」に登場する人形の動きや着物の裾さばきに着想を得た。
空と海を想起させる鮮やかな青色が宮浦港の緑の芝生の上に鮮やかに映えるが、夜間は作品に仕込まれた赤や黄、緑の照明が点灯し、がらりと印象を変える。
<写真>ジョゼ・デ・ギマランイス 《BUNRAKU PUPPET》
SANAA 《直島港ターミナル》 /直島

妹島和世と西沢立衛によるSANAAが設計した《直島港ターミナル》は、2017年に開業するやいなや、本村港の新たなシンボルとなった。旅客船の待合室として機能し、建物内には駐輪所とトイレを備える。
半透明の外観を構成するのは、13個の繊維強化プラスチック製の球体。昼は外からの光をほどよく透過し、夜は照明で幻想的な雰囲気をつくり出す。
<写真>SANAA 《直島港ターミナル》
杉本博司《家プロジェクト 護王神社》/直島

直島特有の家屋や寺社などを改修し、現在も生活が営まれる地域で、空間そのものを作品化する「家プロジェクト」より、現代美術家の杉本博司が手がけた《護王神社》。
本村地区の氏神が祀られている同神社の改築に合わせて、杉本自身が本殿と拝殿、さらに拝殿の地下に位置する石室を設計。石室と本殿の間にガラスの階段をかけることで、地下と地上を結びつけ、ひとつの世界として完成させた。
<写真>家プロジェクト「護王神社」杉本博司《Appropriate Proportion》Photo : Hiroshi Sugimoto
※ベネッセアートサイト直島常設作品
大竹伸朗《直島銭湯「I♥湯」》/直島

実際に入浴ができる《直島銭湯「I♥︎湯」》は、町民の活力源として、そして国内外から来場者との交流の場として2009年につくられた。
外観と内装はもちろん、建物内の浴槽、風呂絵、モザイク画、トイレの陶器にいたるまで、大竹伸朗が制作。大竹が得意とするスクラップブックの手法が三次元となって出現する。入り口近くの番台では、大竹伸朗氏デザインのオリジナルグッズの販売も。
<写真>大竹伸朗《直島銭湯「I♥湯」》Photo : 井上嘉和
※ベネッセアートサイト直島常設作品
内藤礼《家プロジェクト きんざ》/直島

内藤礼による「家プロジェクト」の舞台は、築200年を超える日本家屋。屋根や柱などの構造はそのままに、伝統的な技術を使い、かつて漁師小屋があった場所に立つ家屋を、外壁を含めて作品化した。
すでにそこにあった時間と自然の関係性に、抽象的なオブジェを置くなど、内藤が少しだけ手を加えることによって、新たな空間が創出された。完全予約制で、1人ずつ15分間入館可能。
<写真>内藤礼《家プロジェクト きんざ》内藤礼“このことを” Photo : 畠山直哉
※ベネッセアートサイト直島常設作品
ヘザー・B・スワン+ノンダ・カサリディス《海を夢見る人々の場所》/豊島

オーストラリアを代表する現代美術家ヘザー・B・スワンとギリシア系オーストラリア人の建築家ノンダ・カサリディスによるユニットが手掛けた、ベンチのような作品。2022年に設置。
2人は鉄鍛造によって、漁網のようでもあり、流木のようでもある質感を実現。地元から、あるいは遠く離れたどこかから、海を眺めにこの浜辺を訪れるさまざまな人たちが腰かけ、海や空をより身近に感じ、思考を浮遊させるための場所となった。
<写真>ヘザー・B・スワン+ノンダ・カサリディス《海を夢見る人々の場所》Photo: Keizo Kioku
クリスチャン・ボルタンスキー《心臓音のアーカイブ》/豊島

フランス人アーティスト、クリスチャン・ボルタンスキーによる作品。ボルタンスキーは人々が生きた証として、心臓音を収集するプロジェクトを2008年から展開。ここでは世界中から収集した心臓音が恒久的に保存され、聴くことができる。
館内は3つの部屋で構成される。「ハートルーム」では、心臓の鼓動に合わせ電球が明滅するインスタレーションを展示。「レコーディングルーム」は希望者の心臓音を採録し、「リスニングルーム」ではこれまで収集された心臓音が保存され、聴くことができる。採録された心臓音は自身のメッセージと共にアーカイブ化され、作品の一部となる。
<写真>クリスチャン・ボルタンスキー《心臓音のアーカイブ》Photo : 久家靖秀
※ベネッセアートサイト直島常設作品
禿鷹墳上《20世紀の回想》/女木島

中国・上海出身の禿鷹墳上による、ピアノと波の音のコラボレーションが目と耳に心地よい作品は、2010年に完成。現在は仏教寺の一角で美術と人生の修業を行う彼にとって、芸術は精神的追及であり、宗教でもあるという。
本作は、青銅製のグランドピアノと、4本の帆によるサウンド・インスタレーション。ピアノから流れる音楽が目の前に広がる海の波の音と呼応しながら、唯一無二の旋律を奏でる。
<写真>禿鷹墳上《20世紀の回想》 Photo: Osamu Nakamura
レアンドロ・エルリッヒ《不在の存在》/女木島

アルゼンチン出身のアーティスト、レアンドロ・エルリッヒが2010年、「不在の可視化」をテーマに制作した体験型作品。
建築家の後藤哲夫による設計のもとで古民家を再生した展示場所の茶室では鏡を使い、存在するはずの自分の「不在」を目の当たりにする作品を設置した。建物内にはライブラリーも併設し、来場者は自由に閲覧することができる。
<写真>レアンドロ・エルリッヒ《不在の存在》 Photo: Osamu Nakamura
オニノコプロダクション《オニノコ瓦プロジェクト2》/女木島

オニノコプロダクションは、香川県中学校美術教育研究会が主催するプロジェクトで、美術を通じて社会貢献を目指す。「瀬戸内国際芸術祭2013」への参加をきっかけに活動がスタートし、当時は県内の約3,000人の中学生が伝統工芸品のひとつである鬼瓦を制作。「鬼ヶ島」とも呼ばれる女木島の鬼ヶ島大洞窟に展示した。2019年には、さらに多くの作品が追加され、中学生の手で展示替えも行った。
<写真>オニノコプロダクション《オニノコ瓦プロジェクト2》
ジャウメ・プレンサ《男木島の魂 》/男木島

高松市男木交流館として、地元の人々や観光客の憩いの場となっているのは、スペイン・バルセロナ出身のアーティスト、ジャウメ・プレンサによる《男木島の魂 》。
「文字は、その文化のあり様をもっとも正確に表現した形」と語るプレンサは、貝をイメージした外観の屋根部分に、日本語、ヘブライ語、アラビア語、ラテン語、中国語など8つの言語を表現。日中は、文字が影になり、地面に映し出される。
<写真>ジャウメ・プレンサ《男木島の魂 》 Photo: Osamu Nakamura
山口啓介《歩く方舟》/男木島

1980年代後半に方舟を描いた大型の銅版画作品でデビューし、それ以降、人を包み込むようなスケール感をもつ絵画や立体などさまざまな作品を生み出してきた山口啓介。
2013年に制作された本作も、旧約聖書のノアの方舟から発想を得た。海や空に溶け込むような立体作品は、男木漁港近くの堤防に展示されている。青と白に着色された4つの山を持つ方舟が、海を渡ろうと歩くさまを視覚化した。
<写真>山口啓介《歩く方舟》 Photo: Kimito Takahashi
大岩オスカール+坂 茂《男木島パビリオン》/男木島

瀬戸内の穏やかな海を見渡せる場所に、建築家、坂 茂による設計のもとで建てられた建物と、アメリカを拠点に活動する画家、大岩オスカールが瀬戸内をイメージして描いた作品が、一体化
2022年より公開され、大岩が瀬戸内に生息する生き物たちを描いた3枚のガラス窓から成る作品は、すべてを重ねて1枚の絵として鑑賞することもできる。丸みを帯びた紙製の柱や梁がやわらかな印象をもたらし、大岩のアートと共に、心地よい空間を演出する。
<写真>大岩オスカール+坂 茂《男木島パビリオン》Photo: Keizo Kioku
目《迷路のまち~変幻自在の路地空間〜》/小豆島

アーティストの荒神明香、ディレクターの南川憲二、制作統括の増井宏文の3名を中心とし、チーム型で芸術活動を行う目による、洞窟の中にいるような感覚を味わえる作品。
目は、かつてタバコ屋だった木造2階建ての建物を改装。家屋の外壁を室内に延長させ、迷路のような道をしつらえた。傾きのある道を含む細い路地のような空間を歩いていると、予期せぬ場所で窓や、アート作品がディスプレイされているスポットにも出合える。
<写真>目《迷路のまち~変幻自在の路地空間〜》 Photo: Yasushi Ichikawa
ヤノベケンジ 《スター・アンガー》/小豆島

直径5メートルの巨大ミラーボールから黒い角が放射状に突出し、雄叫びを上げるドラゴンが頂上に鎮座する巨大な彫刻作品。
2013年、灯台跡地に設置されて以来、坂手港のシンボル・モニュメントとなっている《スター・アンガー》は、クレーンによって吊るしたり、台座をつけたりして、回転させることも可能。日中は光を四方八方に反射、日没後から23時半頃まではライトアップされ、別の雰囲気を楽しむことができる。
<写真>ヤノベケンジ 《スター・アンガー》Photo: Kimito Takahashi
清水久和 《オリーブのリーゼント》/小豆島

オリーブ畑の中に突如現れるリーゼントヘアは、2013年に設置された立体作品。インダストリアルデザイナーの清水久和は初めて小豆島を訪れた際、島を象徴する場所としてオリーブ畑に着目。オリーブの実にも似た顔型の白い球体に、「強さ」や「若さ」を感じさせるリーゼントのヘアスタイルを合わせた作品を生み出した。小さなくぼみ部分には、野菜や果物を置くことができる。
<写真>清水久和 《オリーブのリーゼント》 photo : Kimito Takahashi
三宅之功《はじまりの刻》/小豆島

陶を用いた高さ3.7メートル、幅2.4メートルの巨大な「卵」の割れ目から、植物たちが懸命に芽を出そうとする姿が見えるこの作品は、《はじまりの刻》。
植物を素材に使う作品で知られる作家の三宅之功は、本作を「生命の象徴」ととらえ、海に向かって佇む姿について「人間の世界と共通の命の物語である」と語る。卵は、日中には太陽の光を浴びて白く輝き、日没時には夕陽を受けて赤く染まる。
<写真>三宅之功《はじまりの刻》Photo: Keizo Kioku
田島征三《青空水族館》/大島

絵本作家としても知られる田嶋征三が、ハンセン病療養所の寮だった建物を回遊型インスタレーションに改装。陸の上に海底世界が広がる《青空美術館》を2013年に完成させた。
来場者を出迎えるのは、大粒の涙を流し続ける人魚。その後は、海の漂流物でつくられた魚が姿を現す。館内には、木の実などを使って海の様子を表現した空間も。2016年に完成した《森の小径》は、隣に設置されている。
<写真>田島征三《青空水族館》 Photo: Kimito Takahashi