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群馬県立近代美術館
撮影:木暮伸也

【群馬】建築好きが行くべき、フォトジェニックな名建築10

日本の建築史を語る上で重要な名建築が残る群馬県。また近年はまちづくりの一環として地域に開かれた個性豊かな施設も加わり、建築巡りがより楽しい街に!

By miki tamura

群馬県には日本の近代化の象徴となる歴史的建造物をはじめ、モダニズム建築の代表作となる磯崎新の「群馬県立近代美術館」やメタボリズムを提唱した菊竹清訓が手掛けた「旧館林市庁舎」など、建築史を語る上で欠かすことのできない名作がたくさん。また2000年以降も世界を舞台に活躍する気鋭建築家の大胆な発想が生み出した施設も続々完成。建築好きなら一度は訪れておきたいアドレスをピックアップ。

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群馬県立近代美術館/高崎市

群馬県立近代美術館

昨年、開館50周年を迎えた「群馬県立近代美術館」。設計を任されたのは、当時、新進気鋭の建築家として注目されていた磯崎新だ。同館は磯崎の初期の代表作として知られている。

場所は明治百年記念事業の一環として建設された都市公園「群馬の森」の敷地内。緑豊かな公園内にグリッドが基調となった端正な佇まいのモダン建物が現れる。

群馬県立近代美術館
撮影:木暮伸也

磯崎がコンセプトに掲げたのは、12m角の立方体の集合体からなる基本構造。現在、世界の現代美術空間の代名詞になっているホワイトキューブのアイデアの原型となっている。立方体の集合体で構成することで空間自体が流動的に変化し、また増殖可能なものとして考案した。’94年にシアター棟、’98年に現代美術棟が増築されたが、建築コンセプトの有効性が実証されたと言われている。






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群馬県立近代美術館
撮影:木暮伸也

また、外壁に使われているアルミパネルやガラスのグリッドの一辺が120㎝の正方形、エントランスホールの壁面や床面に使われている大理石の正方形パネルの一辺は60㎝、床のタイルは一辺15㎝と、構成要素の全てが12mを基準とした正方形になっている同施設。建築の端正な立ち姿はもちろんだが、建築家のコンセプトが踏襲されたディテールも見どころに。

群馬県立近代美術館
群馬県高崎市綿貫町992-1 群馬の森公園内
公式サイト

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白井屋ホテル/前橋市

白井屋ホテル
©Shinya Kigure

群馬県前橋市では2014年から民間が主導となり地域の活性化プロジェクトが始動。今では国内外のアーティストや建築家の作品が楽しめる街として活気を取り戻しつつある。その起点となったのが2020年に完成した建築家、藤本壮介が手掛けた「白井屋ホテル」だ。藤本は2008年に廃業し取り壊しの危機にあった老舗ホテルの建物を大胆に改修。これを皮切りに、地域の歴史や文化を取り入れながら新たな街の魅力となるスペースを作り上げた。

新生「白井屋ホテル」は新旧2つの棟で構成されている。まず県庁通りにつながる大通り沿いに立つのが既存建物を生かした「ヘリテージタワー」(写真)だ。外観に描かれたコンセプチュアル・アートを牽引するアーティスト、ローレンス・ウィナーの作品が目に飛び込んでくる。

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白井屋ホテル
©Katsumasa Tanaka

藤本は4階建てだった鉄筋コンクリート造の建物の床を全て取り払い、4層分の大きな吹き抜けスペースを作った。ロビー機能を持つ大空間は、レアンドロ・エルリッヒの作品《ライティング・パイプ》が水道の配管のように張り巡らされるなど、国内外のさまざまなアーティスト作品が出迎えてくれる。







白井屋ホテル
©Katsumasa Tanaka

一方、新設したのが近くを流れる旧利根川の土手をイメージした「グリーンタワー」。新しい建物ではあるが、緑の丘に小径があり、昔ながらの雰囲気が残る馬場川通りの一部のように見えてくる。

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白井屋ホテル
©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of New Material Research Laboratory

またグリーンタワーの中にひっそりと佇むのは、現代美術作家の杉本博司と建築家の榊田倫之による「新素材研究所」がデザインした特別なバー「真茶亭」。











白井屋ホテル
©Shinya Kigure

そのほかにもホテル内には、ミケーレ・デ・ルッキやレアンドロ・エルリッヒ、ジャスパー・モリソンがデザインした客室(写真)もあり、建築からアート、デザインまでが存分に楽しめる群馬随一の人気アドレスとなっている。

白井屋ホテル
群馬県前橋市本町2-2-15
公式サイト





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3

太田市美術館・図書館/太田市

太田市美術館・図書館
ⓒDaichi Ano

2017年、太田駅北口前に完成した「太田市美術館・図書館」。人口20万を超える太田市の中心に位置する駅だが、近年は駅前の魅力ある街並みが失われつつあった。そんな中で、人々の流れをもう一度駅前に呼び戻し、歩いて楽しい魅力ある場所に育てていこうと、建築家の平田晃久が駅前施設をデザイン。設計の過程では5カ月間に及ぶ市民とのワークショップを開催し、市民の創造力を生かしたまちづくりの拠点となる施設が完成した。

白い外観と豊かな緑が調和した施設は、周囲の建物と同じくらいのスケールの5つの箱で構成されている。それぞれギャラリーやカフェ、図書館や読書室、勉強スペースなどの機能を持ち、各箱の周りをスロープがぐるりと囲む。建物上にはグリーンが設けられさまざまな起伏を持つ丘のような景色が完成した。

太田市美術館・図書館
ⓒDaichi Ano

建物への入り口は東、南、西面に3カ所あり、さまざまな方角から気軽に入ることができ、かつ通り抜けられるようになっている。また3 階建てではあるが、全体がスロープで緩やかにつながっているため、街中を歩くように自然と上の階へ行くことができる仕掛けに。









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太田市美術館・図書館
ⓒDaichi Ano

それぞれの箱は視線が抜けるようにデザインされ、各施設で行われているイベントや中の様子が垣間見られるように。美術館や図書館とは名前を冠してはいるが、従来の機能を超えた活気あふれる場を目指した。世界最先端の感性やクリエティビティに触れる機会創出を目的に掲げており、ユニークな展覧会やイベントも多く、デザインや建築の枠を超えた刺激的な出会いが楽しめそうだ。

太田市美術館・図書館
群馬県太田市東本町16-30
公式サイト

4

テクノプラザおおた/太田市

テクノプラザおおた

自動車の金型を作るメーカーなど、さまざまなものづくり企業が集まる群馬県太田市。地域のものづくり産業の発展や市街地の活性化を図ることを目的に、2008年に「テクノプラザおおた」が市内中心地に完成した。設計を担当したのは、藤沢市湘南台文化センターをはじめ数々の公共施設を手掛けてきた長谷川逸子。市民と学生と研究者が共存しながら新しいアイデアを生み出せる開放的な施設として設計した。

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テクノプラザおおた

施設内には群馬大学大学院が入っており、大学院研究棟と産学研究棟がL字でつながっている。そして建物を印象付けているのが、建築家が得意とするパンチングメタルを使った外観だ。まるで建物そのものが躍動するかのように屈曲させたパンチングメタルが建物を覆い、間から見える外壁に塗られた鮮やかな黄色が眩しい。

パンチングメタルが作り出す部分は広いバルコニーになっており、内とも外とも言えない曖昧なスペースとして人々が集えるようにデザインされている。

テクノプラザおおた

また地域に開かれた場として機能する同施設のため、フェンスのような囲いはなく建物内へはどこからでも入ることができ、バルコニーもオープンに。芝生広場から見上げて建物の躍動感を体感したら、バルコニー内部から構造の美しさを楽しむのもおすすめ。

テクノプラザおおた
群馬県太田市本町29-1
※大学院研究棟は立ち入り禁止。建物内部を見学したい場合は、3階ものづくり研究機構の事務室で要受付。

公式サイト

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5

館林市民センター(旧館林市庁舎)/館林市

旧館林市庁舎

1959年から1970年代には黒川紀章らとともに建築ムーブメント「メタボリズム」を提唱した戦後日本を代表する建築家の一人、菊竹清訓。そのメタボリズム建築の代表作で、現存する数少ない建築の一つが、菊竹が設計を手掛け1963年に竣工した「旧館林市庁舎」だ。

1981年に市庁舎としての役割を終え、現在は館林市民センターとして利用されている。また近年になり、この貴重な建築をまちの魅力として残していこうと地元有志による団体「東毛建築リサーチ研究所(TBRI)」が立ち上がり、官民連携で進めている館林トライアル・サウンディング事業がスタート。2023年には1階にギャラリー展示を行う〈スペースTBRI〉がオープンし、建築ファンやデザインファンの注目を集めている。

メタボリズム名建築「旧館林市庁舎」に、デザイン&アートラウンジが誕生

旧館林市庁舎

見どころはなんと言ってもメタボリズムを体現した構造美。建物の四隅に立つ柱が、階段やエレベーター、トイレなどを収めた「コア」となり、その柱の間からガラスで囲まれたフロアが飛び出したかのような構造になっている。社会の変化や人口の成長に合わせて有機的に成長する建築をまさに具現化したデザインに。







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旧館林市庁舎

またエントランスから建物へと続く渡り廊下のサッシや天窓のデザインや、最上階の議場の天井にある交差する天窓など、光の取り入れ方も素晴らしい本施設。菊竹がル・コルビュジエに影響を受けたと思われるディテールも必見だ。

菊竹はこの市庁舎のために、当時まだ若きグラフィックデザイナーであった田中一光にタイポグラフィーや色彩計画を依頼。建築の分野に、グラフィック・デザイナーが参画するのは、当時はあまり例のないことだったそうで、随所に建築家の気概を垣間見ることができる。

館林市民センター(旧館林市庁舎)
群馬県館林市仲町14-1
公式サイト

6

群馬県立世界遺産センター/富岡市

旧富岡倉庫

2014年に世界遺産に登録された「富岡製糸場と絹産業遺産群」。そのガイダンス施設となるのが、1901年頃~1923年に建てられた旧富岡倉庫を生かした「群馬県立世界遺産センター」だ。「歴史的建造物を活かしたまちづくり」の一環として、建築家の隈研吾が改修設計を行い2022年にオープン。世界遺産の価値や魅力を伝えるとともに、絹遺産を総合的に発信し、調査研究としての機能も持つ。

敷地には4つの歴史的建造物が立っている。全て明治30年代に創業した富岡倉庫が建設したもので、レンガ積みの1号倉庫(写真)、大谷石積みの2号倉庫、土壁造りの3号倉庫、そして乾燥場の計4棟が広場を囲むように立つ。

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旧富岡倉庫

かつての倉庫機能から、広場を中心にしたにぎわいの拠点へと変容するにあたり、それぞれの建物に「孔」や「隙間」を設け、最寄りの上州富岡駅とまちなか、そして広場をつなげる動線を確保。

<写真> 大谷石積みの2号倉庫







旧富岡倉庫

また各倉庫は耐震補強として、既存建物への負担が少ない炭素繊維の耐震補強材をあやとり状に配置され、その様子は絹糸が張り巡らされているようにも見える。

建物の個性はそのままに新たな価値が加わった旧富岡倉庫の建物群。国内外から観光客が集まる富岡市のにぎわいの拠点として機能する。

<写真>乾燥場

群馬県立世界遺産センター
群馬県富岡市富岡1450−1
公式サイト

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