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横浜美術館が全館オープン! 新エリア&『おかえり、ヨコハマ』展の見どころをリポート

TANGE建築都市設計による建築改修と、乾久美子と菊地敦己によるテーブルや椅子、サイン計画(空間構築)によりアップデートされたグランドギャラリーに注目。

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横浜美術館 リニューアルオープン

2025年2月8日、丹下健三の代表作の一つとしても知られる「横浜美術館」が全館オープン。リニューアルによって無料エリアが拡張したことで、より街に開かれた美術館として多様な過ごし方ができるようになった。本記事では、新しくなった「横浜美術館」の見どころと合わせて、リニューアルオープン記念展としてスタートした『おかえり、ヨコハマ』の会場の様子を解説。期間限定のスイーツや子どもが楽しめる仕組みなども紹介しているので、ぜひ最後までチェックして。

<写真>『おかえり、ヨコハマ』展示風景

横浜美術館

「横浜美術館」は、1989年11月3日に開館。モダニズム建築の巨匠・丹下健三(1913-2005)が国内で初めて手掛けた美術館としても知られており、重厚感のある石造りの建築も大きな見どころの一つだ。

本美術館は「みなとみらい21地区」の中心に建ち、美術館前の広場には日々多くの人が行き交う。丹下は設計にあたり、美術鑑賞の場としてだけでなく、街と美術館との交わりや市民の文化活動、交流の場としても利用できるような自由度の高い空間を目指したという。

2021年からは、老朽化や設備の長寿命化を図るためにTANGE建築都市設計の改修設計により大規模改修工事がスタート。2024年3月15日に「第8回 横浜トリエンナーレ」の開幕とともにリニューアルオープンした。

3年に一度のアート国際展「横浜トリエンナーレ」が開催

そして、「第8回 横浜トリエンナーレ」の閉幕とともに、外部倉庫に保管していた約14000点のコレクションを戻すため再び休館に。2024年11月からは美術図書室やミュージアムショップなどが部分的にオープンし、来る2025年2月8日に全てのエリアがオープンとなった。

<写真>横浜美術館 撮影:新津保建秀

自然光が差し込むようになった「グランドギャラリー」

横浜美術館

美術館に足を踏み入れると現れるグランドギャラリーは、最頂部約16mの吹き抜けが広がる開放的な空間だ。TANGE建築都市設計の改修により開閉式のルーバーが取り付けられたガラス張りの天井からは、気持ちの良い自然光が差し込む。大きな階段上の展示スペースが左右にあり、他にはないユニークな展示空間となっている。

<写真>横浜美術館 撮影:新津保建秀

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横浜美術館
Takuya Neda

今回のリニューアルで、誰もが無料で入ることができる「じゆうエリア」が誕生した。丹下健三による建築を引き立てるように、空間に設置する新たな什器とサイン計画をつくり出したのは、建築家の乾久美子とアートディレクター・グラフィックデザイナーの菊地敦己。オリジナルの什器やサインによって、多様な人々が集い、交流できるような場所を完成させた。

<写真>「グランドギャラリー」の中央部に位置する「まるまるラウンジ」。ここでは、併設するカフェの飲み物を持ち込んで休憩ができる。

横浜美術館
Takuya Neda

エントランスの近くに位置する「くつぬぎスポット」は、小さな子どものスペース。やわらかな日差しのなかで絵本を読んだりと、安心してくつろぐことができる。

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横浜美術館
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大階段では、本美術館の建築で多用される図形である“まる”と“シカク”をテーマにした彫刻作品のコレクションを見ることができる。作品を間近に鑑賞できる座れるスペースや読書を楽しめるスペースも新たに設置された。

カフェやショップなど、街とつながる新施設

横浜美術館
Takuya Neda

美術館の左側の棟に新たな施設が集中している。写真はイタリア語で「柱廊・回廊」という意味のポルティコ。半屋外的なスペースで、左右の棟と中央の棟を一直線につなげる。

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横浜美術館
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<写真左>ポルティコから入ることができるミュージアムショップ「MYNATE」では、オリジナルグッズをはじめ、横浜の地域色を感じられるアイテムや書籍が並ぶ。

<写真右>ミュージアムショップと同空間にあるカフェは、馬車道にある老舗喫茶店「馬車道十番館」。展覧会オリジナルメニューもあり、『おかえり、ヨコハマ』展の開催中は「おかえりYOKOHAMAパフェ(¥900)」を楽しめる。

横浜美術館
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無料のギャラリーは2つ新設された。写真の「ギャラリー9」はガラス張りで、外からもその様子を見ることができる。

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「ギャラリー9」の向かいに位置する「美術図書館」は、広場から直接アクセスできるエリアに移転。アートにまつわる書籍や絵本など、誰でも無料で利用可能。

乾久美子によるオリジナルの家具

横浜美術館
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新しくなった横浜美術館の内部空間には、ピンクを基調としたやさしいカラーリングがみられる。この色は、建築のメイン素材として使われている御影石に埋め込まれたさまざまな色を抽出したもの。11色をキーカラーとして、家具や什器やサイン、壁の色などに採用している。

オリジナルの家具は統一感がありながらも、形や素材も多種多様。どんな人でも、どんな場面でも使いやすいデザインとなっている。このスツールは障害のある人々からのアドバイスで誕生したデザインで、ハンドルがついている。ハンドルは、立ち上がるサポートをしたり、背もたれの役割を持つ。

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<写真>御影石が多用されている。

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有料エリアと無料エリアを区切る可動式のパーテーションも新たにデザインされた。圧迫感のない高さで統一されており、フレームが自在に動くため、様々な形状を作ることができる。

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美術館に欠かせないサイン計画も一新。看板はそれぞれ取り外すことができ、展覧会によってフレキシブルに対応できる仕組み。

また、館内に点在するシェルフやワゴンなども場所の使い方によって組み合わせを変えることができるという。展示が変わるごとに什器の移動によって空間の印象の変化を楽しめる。

リニューアルオープン記念展『おかえり、ヨコハマ』とは?

横浜美術館
Takuya Neda

本展は、久しぶりの全館オープンとなる「横浜美術館」の新たな船出を記念して、収蔵作品の名作を中心に展示。「多様性」をテーマに横浜にまつわる作品を取り上げ、開港以前の横浜に暮らした人びとや女性、子ども、さまざまなルーツを持つ人びとなどに改めて光をあてる。

会場は全8章で構成されている。「第1章 みなとが、ひらく前」では、横浜市域に暮らしていた人びとが使っていたものや遺したものを縄文時代にまで遡って紹介。「第2章 みなとを、ひらけ」では、1859年の開港直後に始まる横浜の遊郭の歴史を辿る。

<写真>「第1章 みなとが、ひらく前」より会場風景。《人面付土器》(鶴見区上台遺跡)弥生時代後期 H32cm 横浜市歴史博物館蔵 (神奈川県指定重要文化財)

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「第3章 ひらけた、みなと」「第4章 こわれた、みなと」「第5章 また、こわれたみなと」「第6章 あぶない、みなと」と、関東大震災から復興、戦争、戦後の混乱を引きずった横浜の姿を作品を通して紹介していく。

<写真>「第7章 美術館が、ひらく」より会場風景。この章では、横浜美術館の設立過程を紹介するほか、ピカソやセザンヌなどによるコレクションの名品が一堂に会する。

横浜美術館
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最終章となる「第8章 いよいよ、みなとが、ひらく」では、入り口付近に「子どもの目でみるコーナー」を配置。子どものために選ばれた作品が並ぶ。

作品は子どもの目線でも見やすい高さに設置されており、子供用の椅子やテーブルのほか、鑑賞を楽しめるようなパネルやカードが用意されている(写真右)。

<写真左>「第8章 いよいよ、みなとが、ひらく」より会場風景。ルネ・マグリット《王様の美術館》 1966 年 油彩、カンヴァス 130.0 x 89.0 cm 横浜美術館蔵

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章の後半には2010年以降の作品が並び、最後の展示室には奈良美智による《春少女》と《横浜の子どもたちへ》が現れる。

<写真>「第8章 いよいよ、みなとが、ひらく」より会場風景。奈良美智《春少女》2012年 アクリル絵具、カンヴァス 227.0 x 182.0 cm 横浜美術館蔵 ©YoshitomoNara

横浜美術館
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グランドギャラリーの大階段には、本展のために制作された檜皮一彦によるインスタレーションが展開されている。横浜の街に存在する障害物に花を咲かせるプロジェクトをおさめた映像作品とともに、あらゆる人が同じ風景を見られるよう、大階段にスロープを取り付けた。

<写真>檜皮一彦《walkingpractice / CODE: OKAERI [SPEC_YOKOHAMA]》

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横浜美術館
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横浜美術館では、先に紹介した「くつぬぎスポット」や「子どもの目でみるコーナー」の他にも、子どもが美術と楽しく触れ合える工夫が多く仕掛けられている。

写真の「ビビッと!びじゅつ探検カード」は、作品や建築の一部が切り取られたカード。裏面には新たな視点や問いかけが印刷されており、ゲーム感覚のように作品巡りができる。

リニューアルを経た「横浜美術館」は、空間のアップデートやローカルに立ち返った「おかえり、ヨコハマ」展を通して、街との関わり方やこれからの美術館のあり方を見事に表現していた。この記念すべき機会をお見逃しなく。


横浜美術館リニューアルオープン記念展「おかえり、ヨコハマ」
会期/2025年2月8日(土)~6月2日(月)
開館時間/10時~18時(入館は閉館の30分前まで)
休館日/木曜日(ただし3月20日[木・祝]は開館)、3月21日(金)
公式サイト

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