ステラ・マッカートニー(以下S):本日はよくおこしくださいました。まずは今回、台風で多くの方が被災された方と聞いて心を痛めています。ヨーロッパから私たちの愛を贈りたい。そのことを言わせてください
二階堂ふみ(以下F):冒頭からステラさんの優しさを感じています。皆さんとすてきな時間を共有させていただきたいと思っています。
―――あなたは責任あるファッションの重要性を発信し、仕事のあらゆる側面を外に向けて発信した最初の人です。それはどこからスタートしたのですか?
S:オーガニックな農場に囲まれた地域で育ちました。何か変化を起こすことを考えている両親のもとベジタリアンに育って、7、8歳でファッション業界に進むことを決めていました。でもレザーやファーを用いるのは動物に囲まれて育った私の意志とは真逆。そういう点で、自分だけ他とは違うところからスタートしているんです。ファッションという、もっとも自然環境に害を与えている業界にいながら、PVC、プラスチック、オーガニックコットン、ヴィスコースなど常に素材づくりに注意を払いながらファッションを作り続けてきました。
F: ファーフリーやレザーを使用していないものを心地よく着られることがまず「ステラ マッカートニー」の魅力だと思うんですが、ファッションの中でサステナビリティを打ち出し“続ける”こともひとつのサステナビリティ。どうやって20年間、自分の名前でずっと発信し続けてこられたのか訊いてみたいんです。
S: 私は“norm(みんながやっていること)”に追従することが嫌いなの。NOと言われたらYESと言える方法を見つけて、チャレンジを続けていくことを自分に課している。ファッション業界は100年以上もずっと同じやり方をしてきた。業界そのものにチャレンジが必要なのよ。もちろんクリエイティブな点でもチャレンジだし、ビジネスウーマンとして、4人の子どもの母親としても、よりよい倫理観でものを作っていかなければならないと、インスピレーションをもってやっています。
S:今、ファッション業界では“サステナビリティ”がトレンドワードになっているけれど、それは続けていかなければ意味がない。持続可能と言うけれど、それがセクシーでクールでファッショナブルな形になること。そうすることでみんなが「当たり前」だと思えるものになると思います。たとえばヴィスコースという素材のために、年間1億5000万本の木を伐採している。だから自分のやり方でヴィスコースを作っているけれど、やっているのは私だけ。自分が先例となること。それをやっていきたい。
―――トレンディではあるけれど、サステナブルなサステナビリティにする必要があるという話でしたが、日本ではトレンディになっているでしょうか?
F:少しずつなりつつあるのでしょうが、自分とどれだけ密接した問題なのか我々は知らないといけないですよね。海外(の環境先進国)に行くと商品の裏にクルエルティフリーだったり環境配慮マークがわかりやすい所に付いているものがすごく多く感じます。日本だと「意識をもっている人」が「意識的に」目を向けないと気づかないことが多いので、よりオープンマインドになって世代を超えて話ができるようにすることがこれからの課題なのかと思います。ステラさんに伺いたいのですが……たくさんの人がファッションを愛している。ですけど、すべての人が環境に配慮された高級なハイファッションを揃えることはなかなかできませんよね? 私たちはまず何からできるんでしょうか?
S: みなさんまずは「ステラ マッカートニー」に来て!(笑) それは冗談として、多くの人が昔にくらべて自分の人生を省みていると思います。何を着るのか、何を食べるのか、どうエクササイズをしようか、旅に行くならどこにしよう……などなど。ファッション業界よりも、みなさんのほうがずっといろいろなことを考え意識している。だから私たちこそ、消費者の方に情報を発信し、いろいろなことを透明化しないといけない。政府の政策自体を変えていかなければ。何よりも大事なのは原材料。どこからやってきて、どう調達し、どこへ行くのかを考えるべきよ。「ステラ マッカートニー」が調達する原料の60%は環境にプラスになるものなの。そういうことを消費者側が自ら「知りたい!」と思う状況がいい。「やらなきゃ!」ではなくて。だから私たちは問いかけをしていきましょう。
F:贅沢な言葉ですね。個人的な質問をしてもいいですか? 私は今、保護猫・保護犬の活動を始めようと少しずつ情報を集めたり、家族に迎え入れたりしているんです。でも世代や宗教によって動物に対する倫理観ひとつとっても大きく違う。世の中にはいろいろな世代や宗教の人が生きている中で、うまく共存しながらどうやって持続可能な生活ができるのか……。ご家族からの影響もあったと思いますが、同じ女性としてもお聞きしたいです。
S:現実に直面している問題、倫理観は親から受け継がれたもの。親たちもさらに上の世代から受け継いでいるもので、決して意図的に環境を破壊しようと思っているわけではないわ。「よりよい生活を子どもたちに送らせたい」。ただそう願っただけなの。産業革命から始まり、それが今こういう現状に至らしめているの。だからこそ、私たちは今、「よりよい世界」を子どもたちに残すために行動しなければいけません。世代によっては理解ができないこともある。今は、子どもたち世代が親に教えなければいけないかもしれない。そんな重要な変換期にきている。現実は若い人たちのものだから。若い人たちの声に耳を傾けてほしい。そうすれば一緒に素晴らしいものが創れるかもしれない。
S:ファッション界のレザーやファーの使用は必ずしも誇りに思ってやっていることではないと思っています。レザーは武器をつくるのと一緒。仕方なく手段として手にしてきたというのが私の意見。技術によって別の手段がとれるのなら、そちらを選ぶ。その技術が今急成長して、可能性が増えている。そこに私は興味があるの。
もうひとつ付け加えたいの。私はこれを楽しい方法でやりたい。こういう話はどうしてもヘビーになってしまうでしょう?(笑) 今あるものにとって代わるものを、楽しく、セクシーでファッショナブルでラグジュアリーに作ることで、変革をもたらすことができると思っています。世界を変えるのに、食べたり持ったりすることを罰することはないわ。
F:素敵なものを蔓延させていきたいというマインドは、ステラさんの服を着ることで受け続けてきたと思います。私は写真を撮ることが好きで、さきほどお母さんであるリンダ・マッカートニーさんの作品を拝見したんですが、被写体が生きいきとしていて、心から楽しんでいる姿を見て、ナチュラルで幸せな家族から「ステラ マッカートニー」というブランドが生まれているんだと改めて思いました。
S: 私、あなたが言ったこと全部理解できた。通訳されなくてもね(笑) 今回のエキシビションは彼女が何年にもわたって撮りためていたポラロイドなの。とってもプライベートなもの。初めて発見して目にしたとき、胸にこみあげてくるものがあったわ。すべてポラロイドだけれど、クオリティが高くて、彼女がいかに才能のある写真家だったかがわかる。ぜひ見ていただきたい。
「リンダ マッカートニー ポラロイド写真展 Linda McCartney:The Polaroid Diaries」
■場所/阪急うめだ本店9階 阪急うめだギャラリー
■会期/2019年10月28日(月)まで
■開館時間/10:00~20:00 (金・土曜日は21:00まで)※最終入場は閉場30分前まで
■入場料(税込)/800円、中学生以下無料