a necklace with beads
“サントス ドゥ カルティエ”ブレスレット(18KYG)¥561,000/カルティエ


ウィッシュリストはお買い物を計画的に進める脳内メモであり、「なりたい自分」「かなえたい願い」といった潜在的な希望の現れ。本連載では、「欲しいものはだいたい買いがち」なpepperさんが、自身のウィッシュリストで順番待ちをしている名品を、その魅力とともに紹介する。

Photo:AKEMI KUROSAKA


いっそこっぴどく振られたい

初めて【サントス ドゥ カルティエ】ブレスレットを知ったのはいつだったか、はっきりとは覚えていない。けれども見た瞬間に、「あ、これは私のところにくるものだ」そう思った。

長方形のコマが規則正しく連なるブレスレットにわかりやすいモチーフや装飾は一切なく、ともすれば地味にも見える。しかし、エッジをつけたコマの側面は光を反射してキラキラと輝き、立体的なチェーンは手首に光と影を生み出してハッとするほどドラマチックに映る。

「カルティエ」のジュエリーや腕時計はいくつか持っているが、その中でも“サントスガルベ”は相棒と言ってもいい存在だ。2000年代初めに社会人になった私は、当時人気だった“タンクフランセーズ”や“パシャ ドゥ カルティエ”ではなく、なぜか“サントスガルベ”に惹かれた。

pepper わたしのウィッシュリスト365日
Pepper
「オリンピックイヤーの今年は、“サントスガルベ”をレトロスポーツのムードで合わせたい」 ※すべて本人私物

珍しい正方形のケースにベルトコンベヤーのようなブレスレット、ナットのような七角形のリュウズ、ビスのモチーフ。ジュエラーらしいエレガンスは保ちながら他のどの腕時計とも違う斬新なデザインに心をつかまれて、「これは私のところにくるものだ」と購入した。

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Pepper
「『カルティエ』の大胆な発想を感じられる“ラブブレス”と“ジュストアンクル”」 ※すべて本人私物

以来“サントスガルベ”とは15年以上の付き合いになる。この腕時計とブレスレットに抱いた共通の感情、どちらも名前に同じ「サントス」があるのはただの偶然ではないはずだ。インダストリアルなビスやくぎを洗練されたデザインに落としこみ、ものをつなぐための道具として生まれたチェーンをラグジュアリーピースに昇華する。そこにはありふれた日用品に美しさを見いだし、既存の価値観を軽やかに更新するモードな精神があふれていて、「サントス」はカルティエの伝統と革新を象徴するコードだと感じる。

pepper わたしのウィッシュリスト365日
Pepper
「ハンドルを留めるビスにグッときて購入したかごバッグは、20年来のセルフヴィンテージ」

私の想いが電波を通じて伝わったのか、ある時期からインスタグラムのフィードに頻繁にサントスのブレスレットが表示されるようになった。これは「そろそろ買っちゃいなYO」という天からのメッセージだと解釈した私は「カルティエ」のブティックに足を運んだ。

長年憧れつづけたブレスレットをとうとう手に入れるという感慨深さと高揚感につつまれながら、ショーケースから出してもらったブレスレットをそっと手首にのせた瞬間、血の気がひいていくのを感じた。私の頼りなさげで弱々しい手首に対して、サントスのブレスレットは圧倒的な存在感を放っていた。思わず「お館様……」とつぶやいてしまうくらい主客が逆転していた。「これは私のところにくるものではない」とわかったそのとき、この恋が片思いだったことを知った。

あれから数年たったが、雑誌やSNSで心惹かれるチェーンブレスレットを見かけると、「どうかサントスじゃありませんように……」と祈るような気持ちでクレジットやタグを確認する。しかし、祈りもむなしく毎回そこに「サントス ドゥ カルティエ」の文字を確認して、静かに古傷をえぐられている。

真上から照りつける夏の日差しの中、乾いた素肌の上にゴールドのブレスレットを着けたらどんなにすてきだろう。そんなことを考えながら「カルティエ」のオンラインブティックを開き、サントスのページを眺めれば、またおすすめに表示されるという無限ループ。これでは忘れることもできない。このこじらせた想いを手放すには、思い切って購入してしまおうか。もしかしたら、あの日よりは似合うようになっているかもしれないから。

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AYA KAWACHI

pepper/都内で働く40代の会社員で、2人の男の子の母。インスタグラムに綴る、懐かしのフレーズとユーモアを交えたファッションへの愛に魅了されるファンが多数。ジュエリー選びの虎の巻が詰まった著書『わたしのジュエリー365日』(CCCメディアハウス)も話題に。2024年7月よりELLE STYLE INSIDERとしても活躍中。


問い合わせ先/カルティエ カスタマー サービスセンター tel.0120-1847-00

https://www.cartier.jp/