ウィッシュリストはお買い物を計画的に進める脳内メモであり、「なりたい自分」「かなえたい願い」といった潜在的な希望の現れ。本連載では、「欲しいものはだいたい買いがち」なpepperさんが、自身のウィッシュリストで順番待ちをしている名品を、その魅力とともに紹介する。
Photo:AKEMI KUROSAKA
憧れに手を伸ばしたい
高校生の頃、街でもらったポケットティッシュの中に黒地に白い文字でCHANCEと書かれたものがあった。あきらかに「シャネル」のパロディーだったけれど、私はそれを使わずにずっと机の引き出しにしまっていた。たとえパロディーだとしても、「シャネル」は特別な存在だった。
他の誰とも違う生き方を選び、時代を超えるスタイルを生み出したガブリエル シャネル。家を出る前に鏡を見て、身に着けているアクセサリーをひとつはずすように「常に取り去ること、決して付け足さないこと」という彼女の有名な言葉がある。
出掛ける前にその言葉を思い出しリングをひとつはずして鏡をのぞくと、不安げな自分と目が合う。ちょっと物足りないかもしれない、とブレスレットを着けてみる。同じ手にきゃしゃなリングもプラスする。そうして「ひとつはずしてふたつ着ける」を何度かループしたところで時間切れとなり慌てて家を飛び出すと、外出先の鏡に映ったゴチャゴチャした自分の姿にギョッとする。
過剰は美しくないというガブリエルの考えを頭では理解しているのに、いくつものジュエリーで武装してしまう。黒いセーターと白いパンツにパールネックレスを何本も重ねて、両手にビザンチン調のカフを着けたガブリエル シャネルの最高にシックな姿を思い浮かべる。どうやら数の問題ではないようだ。私に足りないのは「これが私」という自信と覚悟なのかもしれないと思いながら、外出先でそっとリングをはずしてポーチにしまう。
40代半ばにさしかかった今でも、高校生の頃と変わらず「シャネル」は特別な存在だ。ただ、人生の後半戦に突入して、憧れの世界をただ眺めているだけではなく背伸びして手を伸ばしてみたいと思うようになった。「シャネル」のある人生を経験してみたい。そう考えた時、真っ先に頭に浮かんだのは、“プルミエールリボン”だった。
シャネル N°5のフレグランスのボトルストッパーや、パリのヴァンドーム広場に着想を得たという端正な八角形のケース、小さな白いダイヤモンドがぐるりと囲むブラックダイヤルは潔くてシックだ。ベルベットのように仕上げたラバー製のストラップは機能的だし、ステンレスのケースにダイヤモンドという組み合わせは、本物の宝石とコスチュームジュエリーをミックスして着けていたガブリエル シャネルを連想させる。この白と黒で構成された小さな世界には、私が憧れる「シャネル」らしさがすべて詰まっている。ジュエリーはこれひとつだけあればいいなんて言ってみたい。
「果たして会社員の自分にジュエリーウォッチの出番はあるのか?」「すでに4本の腕時計を持っているのに5本目は必要なのか?」という現実的な問題はいったん忘れて、今はただ甘美な夢想にふけっていたい。
ウォッチ¥1,023,000/シャネル(シャネルカスタマーケア)
pepper/都内で働く40代の会社員で、2人の男の子の母。インスタグラムにつづる、懐かしのフレーズとユーモアを交えたファッションへの愛に魅了されるファンが多数。ジュエリー選びの虎の巻が詰まった著書『わたしのジュエリー365日』(CCCメディアハウス)も話題に。2024年7月よりELLE STYLE INSIDERとしても活躍中。
問い合わせ先/シャネルカスタマーケア 0120-525-519