ファレル・ウィリアムスとNIGO®が出会ったのは、約25年前にさかのぼる。ファレルの初来日で意気投合した2人は、2003年に「ビリオネア・ボーイズ・クラブ（BILLIONAIRE BOYS CLUB）」と「アイスクリーム（ICECREAM）」を共同設立し、その翌年には当時の「ルイ・ヴィトン」ウィメンズ クリエイティブ ディレクター、マーク・ジェイコブスの誘いを受けて「ミリオネア」サングラスを制作した。その後も2人は多くのプロジェクトでタッグを組み、その度にセンセーショナルを巻き起こしてきた。ファレルがメゾンのメンズ クリエイティブディレクターに就任し、初となるコラボレーションの相手に選んだのがNIGO®であることは、彼にとって極めて自然なことだったと想像できる。
ルーブル美術館の庭園に設けた仮設会場内は、世界的なインテリアデザイナー片山正通率いるWonderwall®が手掛けた会場セットでゲストを出迎える。“永遠の友情”を表すかのような円形のランウエイは、桜色に染まっていた。ショーは、ポンヌフ管弦楽団による植松伸夫の“片翼の天使（ファイナルファンタジーVII）”で開幕。今季は、NIGO®の母国である日本が、ウィリアムのクリエーションにおいて重要な役割を果たし、桜、刺し子、七宝織りなど、日本的なモチーフや技術を用いて、二人のルーツであるストリートウェアがメゾンらしいラグジュアリーに再解釈されている。
茶道の織物パターンからインスピレーションを得た“ダンディ ダミエ”や、ウィリアムスが生み出し新たなアイコンモチーフとなった“ダモフラージュ”が桜と融合した“チェリー ブロッサム ダモフラージュ”が、デニム、ニットウェア、レザー、テーラリングを華々しく飾る。定評のあるテーラリングはもちろんのこと、今季は彫刻的なボンバージャケット、着物の前見頃を取り入れたライダースジャッケット、大きなポケットが飾る幅広いバリエーションのワークウエアジャケットとアウターが豊作である。それらに合わせるのはバギーかベルボトムのパンツで、ウィリアムスとNIGO®それぞれのスタイルを象徴するシルエットが今季を特徴付けた。
コレクション全体を通して表現された、日本の伝統と美意識への敬意。それはウェアだけでなくアクセサリーでも体現され、“スピーディ”はゆずイエロー、煎茶グリーン、桜ピンクの3色が新たに仲間入り。日本の伝統的な手法で染められた藍色バージョンと、金継ぎを思わせるゴールドに白いモノグラムがあしらわれた、コレクターが熱狂する特別デザインも披露した。メンズだけでなくウィメンズのウェアにもマッチしそうなレザーで構成された“ショッパー トート”は、“スピーディ”に次ぐ新たなアイコン候補だ。
フィナーレを迎えると、それまで隠されていた24のディスプレイケースのスモークガラスが徐々に透け、その中身をあらわにした。そこにはメゾン、ウィリアムス、NIGO®が所有するコレクションに加え、個人コレクターから貸し出されたアイテムが陳列されており、ショー後にゲストは展示品をじっくり鑑賞する時間も与えられた。
彼らの歴史の一部を垣間見ると、今季の84のルックが単なるコラボレーションではなく、真の友情によって紡がれたプライスレスな価値ある内容だと感じさせた。本来は視覚化できない“絆”が具現化したコレクションは、華やかさの中にどこか人間的な温かさを持ち、私たちの心を揺さぶるアイテムであふれている。
