これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Balenciaga 54th Couture Collection
Balenciaga 54th Couture Collection thumnail
Watch onWatch on YouTube

「バレンシアガ」を去るデムナには、「さよなら」よりも「ありがとう」という言葉を贈りたい。クリエティブ ディレクターとして在籍した10年間で、ファッションという領域を超えて現代文化に疑問を投げかけ、時に物議を醸しながら業界を刺激し、“ラグジュアリー・ストリート”の美学を確立させた。

バレンシアガ
BALENCIAGA

ショーの演出とコレクションに込めるメッセージ含め、「今季はどんな風に私たちを驚かせるのか。新たな視点をもたらしてくれるはずだ」と、常に期待させてくれる存在だった。オーバーサイズのシルエットに流動的なフラワープリントのドレス、ダッドスニーカーブームの火付け役となった“トリプル S”、そしてバッグにおいては“バザール”を始め、リバイバルさせた“ル・シティ”、直近では“ロデオ”など次々とヒットを生み出してきた。

バレンシアガ
BALENCIAGA
a woman in a floralpatterned outfit stands in front of a grocery store
BALENCIAGA

メゾンの主力製品であるアクセサリーをヒットさせることができるのは、多くのデザイナーが挑みながらも、数限られた成功例しかない。パリのケリンググループ本社で開催された、デムナの10年間を振り返る「レジュメ展覧会」で、招待状として使用されたオブジェクトやプレタポルテとオートクチュールの作品を眺めていると、この10年間はメゾンにとってだけでなく、モード史にとっても特筆すべき重要な瞬間だったことを実感させられる。

バレンシアガ
BALENCIAGA

なにより語り継がれるべき功績は、創業者クリストバル・バレンシアガが引退して以来、長らく休眠していたオートクチュールを53年ぶりに復活させたことだ。そして、彼の最終章は、メゾンにとって54回目のオートクチュール・コレクションで締めくくられた。デムナからの最後の招待状には、彼にとってのファッションの概念がつづられていた。「ファッションは常に明日の境界線に立ち、私たちが知っているものではなく、次に何が来るのかを見つけ出すスリルによって突き動かされています。それは、変化が訪れる前にその意味を見いだし、名前すらない未来を装うという、私たちの進化への本能的な欲求の表現なのです」

fashion model displaying a long black coat with dramatic collar against a turquoise door
BALENCIAGA
fashion model showcasing luxury attire
BALENCIAGA

ショーはジョルジュ・サンク大通り10番地の歴史あるクチュールサロンで行われたが、公開されたルックブックは、地下鉄の入り口やカフェのテラス、エッフェル塔のふもとなど、パリ各地の日常的な風景で撮影された。そこは、かつて彼自身が着想を得てきたリアルなパリの場所でもあり、「私がファッションのキャリアをスタートさせた街へのオマージュ」だと語っている。

a pair of elegantly dressed figures in a city setting
BALENCIAGA

コレクションの内容は、まさに過去10年間の集大成。中核を担うのは、“典型的な服”をアップグレードし続けた彼らしいテーラードジャケットで、顔を縁取るチューリップ型のラペルや、メディチ家をほうふつとさせるハイカラーのネックラインといったプレタポルテから引用したディテールも含まれる。威嚇するようなパワーショルダーに、床を引きずるトレンチコートにボンバージャケット。もちろんその多くがオーバーサイズで。

a person in a luxurious outfit showcasing high fashion
BALENCIAGA
キム・カーダシアン

デムナの最後のショーのために、過去にランウェイを彩った豪華な顔ぶれが再集結した。キム・カーダシアンは映画『熱いトタン屋根の猫』のエリザベス・テイラーを再現し、イザベル・ユペールはクチュール仕立てのパンツルックで登場。創業者のお気に入りでハウスモデルを務めたダニエル・スラヴィックが着用した1967年のアンサンブルは、歴史と現代をつないだ。そして、ラストルックを歩いたのは常連モデルのエリザ・ダグラス。2023-24年秋冬オートクチュールで発表された深紅のギュピュールレースのドレスを、今季は純白に再構築し、フィナーレを飾った。

stylish individual standing on a crosswalk near a café
BALENCIAGA
イザベル・ユペール

恒例となった、コレクションに込めた思いを記したデムナのレターも、これが最後となる。彼はこう書き始めている。「このコレクションは、『バレンシアガ』での私の10年間を締めくくるにふさわしいものです。不可能と思われる完璧さへの飽くなき追求の中で、私は限りなく満足感に近づきました——それこそがクリストバル・バレンシアガの精神そのものです」。ランウェイに流れたサウンドトラックでは、デムナの創造性を支え、不可能を可能にしてきたチームメンバーの名前が読み上げられ、深い感謝の意が表されていた。

a detailed view of a lace gown against a decorative gate
BALENCIAGA
フィナーレを飾ったエリザ・ダグラス

彼は「バレンシアガ」を後にし、次に向かうのは「グッチ」。その船出がどんな新章を切り拓くのかは、まだ誰にもわからない。ただひとつ確かなのは、デムナがこの10年間で現代ファッションに刻み込んだ衝撃と革新は、今後も決して色あせることがないということだ。

text encouraging attention featuring the word look prominently
balenciaga