-今回、音楽は『REC3/レック3 ジェネシス』をはじめ何度もタッグを組まれてきたミケル・サラス氏が担当されています。メロディに少し不穏なムードを感じたのですが、どのように依頼されたのですか?
「手始めに彼を『ムガリッツ』に連れていきました。あの空間に漂う魂のようなものを感じてもらいたかったんです。そのうえで依頼したのは、まず“楽器を使わないこと”。フォークやグラスなど、できるだけキッチンにあるものを使って音を奏でてもらいました」
「もうひとつ伝えたのは“メロディは不要”。料理人たちの感情や心情が浮かび上がるように、観客に音楽だと認識されないような音にしてほしかったのです。不穏さを感じられたのであれば、料理人たちの不安や集中する様子と音がシンクロしていたのかもしれません。自分にとっても特別な音楽になりましたね」(プラサ監督)
-映画の制作を通して、改めて感じた「ムガリッツ」の印象を教えてください。
「やはり『ムガリッツ』は、私たちの常識を覆す刺激を与えてくれる場所だと実感しました。このドキュメンタリーを通して、彼らの働き方や料理芸術に対する姿勢を多くの人に知っていただけたら嬉しいですね」
-ホラー映画を得意とされている監督にとって、この作品はどのような意味をもちますか?
「年を重ねるにつれて、物事を行う際に好奇心を優先するようになりました。今回は、まさに好奇心によって“自分の領域外”に飛び込んだ作品。ひと際嬉しかったのは、普段見ることが難しいレストランの舞台裏が知れたこと。レストラン運営も映画制作もチームワークが重要になりますが、彼らの働き方を目の当たりにして、どのようにチームビルディングをしていけばよいかが学べたこと。自分にとって非常に実りのある作品になりました」(プラサ監督)
レストランの枠に留まらない孤高の存在として30年近く世界のフードシーンにおいて無二の煌めきを放ってきた「ムガリッツ」。それは、一歩引いて物事を俯瞰で捉えるアンドニシェフならではのリーダーシップと、テーマや問題に全力でひたむきに取り組むスタッフの静かな情熱の賜物だ。監督が長年にわたる熱心なファンだからこそ、「ムガリッツ」に敬意を払って細やかな機微まで捉えた貴重な記録。レストランとは? 美食とは? 味覚とは? “食後”まで無数の問いかけが余韻のように響くドキュメンタリーだ。